失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録 |
そ その島は滅びず 無人島浪漫紀行 第10回
これまでは空の青、建物の灰色だけを目にしていた。
さすがに見飽きていた私の視覚に、夕日の赤が加わってきた。
無機質に思えた島の様相に太陽が一抹の潤いを与えてくれた。
私が美しいと感じる色彩は自然に派生してくるものである。
薄黒く変色した建物の壁でさえ、長い間についた年輪に感じ、恐怖感はなかった。
が、この色には醜悪さを感じる。せっかく期待して入った手術室なのに。
写真集で見たライトはこんなではなかった。
だれがやったのか?その理由はなんだったのだろう?
・・・・・・・・。
両方とも知りたくすらない。
診療所の通路はそのまま私たちを外へ導いてくれた。
そこにはあの巨大な建物がある。近くにおられたリキさんを呼びとめ写真を撮った。
こんな背景の写真、他では絶対に撮影できないだろう。
今でもこの写真を見るたびに震えがくる。
ニ巡目ともなると島の地理もある程度分かってくる。
再び最古の鉄筋建物
30号棟を
通り過ぎ・・・・・。
振り返ると・・・・・
夕日が最後の威光を私たちに向かって照射していた。
それにしても・・・・・・、この光景・・・・・、
適切に表現する言葉を今の私は知らない。
「美しい」でいいのだろうか?
「かっこいい」は絶対に違うし、「趣がある」は逃げている。
ただ、一度みたら忘れられない天のものなる光景であるのは確かだ。
夕日の右に見えるのが先ほど通った30号棟である。
大自然を残した土地の上にも、文明満ち溢れる都市の上にも、瓦解した無人島の上にも、夕日は平等に美しい光を与えてくれる。そんな当たり前のことを改めて実感した瞬間だった。
私は今、背中に赤い光を感じながら再び歩いている。
前方にさっきみんなで写真を撮った灯台が見える。
白い塔は今はピンク色に染まっている。
あそこに、行きたい。
今、行きたい。
空と海が赤いうちに。
光度を失い始めた瓦礫の道は歩きにくい。足を踏み外さぬように無意識に気を使うと、汗が噴き出してくる。
11月なのにシャツをぬらしながら三人は丘を登っていった。
上りきったところに灯台があった。
そこには樹崎さんとプロダクションの方がおられ、同じように写真を撮られていた。漫画の材料にされるという。
「せっかくの夕焼けだし、みんなで写真を撮りませんか?」当然のごとくに私は提案した。
前の回でも述べたが、旅先で「人」と撮った写真は景色よりも貴重な気がする。事実、上の方とは、あれから一度もお会いしていない。
写真を撮った後、私は海に目をやった。
すぐ目の前に建物の廃柱が見える。
まるで主人である建物の墓標のようだ。
その向こうには赤く染まった海が
静かにさざなみをたて、
さらに向こうにはなんと言う名前なのだろう、
三つの孤島が訪れる人を待つように
さびしそうにこちらを見ていた。
一番奥にいる、一番大きな太陽はこの直後姿を消した。
一日が終わる。もったいない。
5人に増えた一行は、テントを張った学校へ戻った。
夜・・・・・・・・・・・・十数人の今回の渡航者全員で食事をとった。
食事も終った9時過ぎ、Sさんがおっしゃった。
「夜の島も素敵ですよ。一周しますか?もちろん、夜ですしおいでになりたい方だけでよろしいですよ。」
私は・・・・・
もちろんおいでになりたいに決まっている。
takさん、リキさん、樹崎さんたちもおいでになりたい方だったようで、みなで声を掛け合って夜間行に加わった。
島の一日はなかなか終らないようだ。
一日が終る。
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