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失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録
その島は滅びず 無人島浪漫紀行 第11回

街灯があるはずもなく、各自の持っている懐中電灯が頼りだった。空には月が出ていたが、雲が多いせいか、薄ぼんやりと遠慮がちに見下ろしているだけである。これでは頼りにならない。

昼間、見えていたがなぜか降りることのなかった地下への入り口の前に立った。
「おりますよ、足元に気をつけて。」Sさんが階段を降りはじめた。
やはり緊張する。怪我をしたらこんな夜半の無人島ではどうしようもない。
足元の小さな石一つが昼間以上の凶器となっているのを感じる。後ろを振り返った。人がいるのは判別できたが誰だかわからない。




降り立ったところはそれほどの広さもなく、閉鎖された故のよどんだ空気が押し黙っていた。
ここは当時の市場らしい。

            
ショーケースらしきものもバリバリに割れていた。なにか一つでも商品が残っていないか足元を探したが、それぞれの物体が商品なのか、それとも建物の破片なのかも分からない状態だった。



不意に、私の懐中電灯の光が消えた。

「あれ?」
「どうしたんですか?」横にいたtakさんが聞いてきた。
「光が・・・・・消えてもうた。電池切れや・・。そういえば、確認してこなかったわ。」
「やばいですね、それは。」
これ以降、takさんについて歩いた。


夜間行動の一行の列は日給住宅へと向かった。地上に出るとさっきまで頼りないと思っていた月の光が、電池切れを招いた愚か者の目には頼もしく感じる。




いくつもある住居の中の一つに入った。


「どうしてこの部屋はこんなにきれいかわかりますか?昼間見てきた家の中はぼろぼろだったでしょう。」先頭のSさんが言った。


たしかに・・・・・。家財道具がそれなりの形で残っている。この上の機械は、レコードプレーヤーのようだ。横のふすまのポスターもそのまま残っている。

「なんでですか?たしかに紙類もそのまま残ってますよね。」

「この家の人はね、島を出て行くときに窓の雨戸を閉めていったのですよ。もうもどってこられないと分かっていても、無意識にそうしたんでしょうね。

今回の私の旅でで最も心に残っているのが、今回のSさんの言葉である。そういえば、ほとんどの家は雨戸がなかったように思う。この家は、夜で真っ暗なので分からなかったが、雨戸がしまっており窓ガラスも割れずに戻っている。
よって、部屋のたたみもそれほど傷んでいない。掃除をすれば本当にすめそうなのだ。


島を離れるとき、きっちりと雨戸を閉めていった人は、その時どんな思いだったのだろうか。単に部屋がきれいだという現象面だけではなく、その奥にある島のあり方の本質を垣間見たのがこの瞬間なのだ。


反対側のふすまにもポスターが貼ってあった。当時の芸能人だろう。一番右上の人は森昌子さんだと分かったが、他の人の顔を私は存じ上げない。


この家の人はよほど芸能人が好きだったのだろう。さらにこんなポスターもあった。古い映画が好きな私には、スティーブ・マックイーンはすぐに分かった。他の方については残念ながら知らない。


同じ家だったろうか。それとも違っていただろうか?渡航から数年を経ており記憶から消えつつある。
小さな子どもがいたことが分かる痕跡がきれいに残っている。



                     ↑真ん中にオバQがいる!


足元に散らばる子どもたちの道具たち。虹というノートの横にも漢字を何度もかいた練習帳が広げられたままでおかれていた。これからもずっとそうなのだろう。




小さな台所にはきちんと洗ってかごに入れてもらえた食器と、洗ってもらえなかった鍋が共に誰かを待っていた。




この日給住宅には数えられない生活用品が存在していた。中でも最も印象に残ったのが下の二つである。


                    
昼間見たものよりもさらに古い型のテレビ。ブラウン管が丸い。そのブラウン管よりも長い奥行き。脚が四本ある。
Sさんがつぶやいた。「ずっとここにいるんですよ、一人で。」




そしてこれである。


日付は見なくても分かる

この年のこの月に決まっているのだ。だからここに存在しているのであり、一日ごとに×印がつけられているのだ。



 1974年4月、閉山







私たちは部屋を出た。
真っ暗な廊下。さすがに怖くなってくる。
最後に対面の建物を写真に撮った。



「最後に屋上に行きましょう。」Sさんについて階段を登っていく。

これまでこもりきっていた空気が一変する。
灰色の屋上。いつのころからか茂った雑草がこの場所の主役であった。




このなんとも言いようのない雰囲気。


誰もいない無人島・・・・・。


くずれかけたコンクリートの建物。


見上げた空はどこから見ても同じだが、足元は別世界である。今、自分が置かれている状況は人生の中でも最も珍しく、そして得難いものであろう。

ここへきてよかった。改めてそう思った一瞬だった・・・。





帰り道、私は無言だった。今日一日見たものを反芻してみた。
が、うまく思い出せない。
あまりにも信じられない光景が多すぎ、
目に映るものが美しすぎ、
そして興味本位で渡ってきた私があまりに愚かだったのだ。

上を見上げると半月が出ていた。


海から上がる朝日を見ようとYさんと約束をして、テントに入った。
                    
この上のがさっき撮った今日最後の写真だ。
本当に一日が終わる・・・・・・。
貴重すぎる一日が終わる。




終わる・・・・・・・。


おやすみなさい、無人島・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・。あの・・・・・・・・。




いやじゃ!





終わらせたくない!




どうしても眠りたくなかった。
もったいなさすぎるではないか。


私は・・・・・・・・・・・実に愚かな行動にでた。


テントから出た。あたりは真っ暗でありみんな寝静まっている。
そして・・・。
                               おわらない

    

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