掲示板  日記帳  リンク 更新記録  メール

失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録


                                  その島は滅びず 無人島浪漫紀行 第4回


自分の身の回りに、あるいは自分自身でもいいのだが、普段とは違う大きな出来事があったとする。そんな時、自分以外の人や社会が普段どおりに動いていると、不思議に感じることがある。
変な話だが、学生時代付き合っていた人と別れ、一晩中寝られなかった夜があった。その日の朝、いつもどおりに朝刊が郵便受けに差し込まれる音を聞いたとき、ひどく驚愕した。


この今、私の前に広がる信じがたい光景。だが、その向こうには私が生まれたときから見ており、人が存在する前からかわらない青空がある。当たり前と言えば当たり前なのだが、この時の私にはありえないことのように思えたのだ。



足元に何かが落ちている。
なんだろう?
一枚の紙切れのようだ。

          

!!

安全灯日誌とある。日付を見ると昭和42年とあった。そこには管理責任者の印鑑も押してある。この紙は40年近く前からずっとここにおちていたのだろうか?まさか。どこからか飛んできたのだろうか。いずれにせよ、よくぞ残っていたものだ。
これまで遠くにあるコンクリートや鉄骨の遺構ばかり見ていたが、こうした足元にある一枚の紙も、やはり当時をしのばせる貴重な遺構なのだ。




「この下に下りますよ。」引率してくれているSさんが言った。
「下?」
これまでずっと登ってばかりいた。ここは地上のはずだ。この下とは?
「この向こうに桟橋があるでしょう。」
見るとたしかに楕円形をしたコンクリートの小島がすぐ目の前の海の上に顔をのぞかせている。当時はあそこが船着場であり、そこと島の居住地域を結ぶトンネルがこの下にあった。

私たちはいまからそこへ降りるのだ。


コンクリートで固められた四角い入り口があった。階段を下りると途端に日の光がなくなる。懐中電灯はリュックに入っているが、取り出すのは面倒くさい。前を歩く人を頼りにそのまま進んだ。


壁面の新しい落書き・・・・・・・ひどいものだ。


こもった空気に包まれる。数十年前はここも人々の声であふれていたのだろう。


この地下道には、炭鉱の作業場への入り口がある。私はその作業場を見たかった。ここで働く人たちの様子を知りたかったのだ。

だが、その入り口は今ではこうなっている。作業場を見たいという私の望みはかなわない。

             




真ん中好きの癖に、この時私は珍しく最後尾を歩いていた。
なぜか、歩くのをやめた。前を歩く人の姿がすぐに見えなくなる。この暗さだし、地下道は緩やかに歪曲している。台風のときの排水溝の意味もあるのだろう。

誰も見えない。今、この地下道には私一人がいる、そんな気になった。
そしてこのとき写真を一枚撮った。取るに足らないものだ。
         
なぜ、このとき私は一人になりたかったのか、そしてこの写真を撮ったのかはわかない。「無人島」の雰囲気に浸りたかったのだろうか。それとも、スリルを求めて?
ただ言えるのは、この島は静かに訪れるものだ、そんな気がしていたのは確かである。それゆえの単独行動だったのかもしれない。
とはいえ、やはり危険である。私はすぐに前の集団に追いついた。
「ここで行き止まりです。」
先ほどではないが、穴がふさがれていた。

壁には当時の電灯の後と電線が残されている。


すぐ向こうに出口の明かりが見える。だが、そこへはどうしてもいけないのである。



今度は私が先頭となって地下道をバックした。


地上へでたとき、明るさに幻惑された。目が慣れるにしたがい、遠くにこの島でも最も有名な遺構の一つが目に入った。
それはこれである。


ベルトコンベアの支柱である。もちろんベルトは残っていないが、柱は今でも倒れることなく、整列をしている。もうつかわれることがないのにこうして律儀に並んでいる。

この光景を見たとき、前述の驚きがわきあがってきた。建物は目に見える形で崩れていくのに、青い空はそれとは無関係に存在している。当たり前といえば当たり前なのだが、この悲しいまでに生真面目な支柱と、圧倒的な悠久性をもった青空のコントラストが実に調和しており、それだからこそ不思議なコントラストをも持ち合わせ両者がそこにいた。



コンベア跡にそって歩いた。

なぜか錆付いた自転車が落ちている。
「この自転車、よく何十年も持ちましたね。」
「いえ、これは以前ドラマの舞台になったときテレビ局の人が持ち込んで、そのまま放置したものなんですよ。」
なぜ持って帰らないのだろう?私たちはこの渡航に際しては、すべてのゴミを持ち帰った。



向こうに見覚えのある建物が見えてきた。最初に見た小中学校である。よく見ると壁はそれほど傷んでいないことがわかる。

もちろん窓は割れているし塗装もめくれているが、この程度の建物ならうちの近所にいくつでもある。これならここで今晩野宿しても大丈夫だな、そう思ったとき、あっと驚くものが目に入った。


建物の基礎である。


なぜ、基礎が見えているのだろう?普通は土の中なのに。


決まっている。侵食されているのだ。


海に近いほうは水につかっており、その何本かはすでに土から浮いていた。その上にテントを張っている人もいる。
彼らは宙に浮いた形で寝るわけだ。


こんな野宿はさすがに最初で最後だろう。





「では、次に行きますか?」
これで島の外周はまわったことになる。次はどこへ行くのだろう?島の中心地区だろうか?

先頭を歩いていたSさんは、最初に紹介した65号棟の中へ入っていった。建物の中も見られるのか。私も後に続いた。



                              

      無人島浪漫紀行 目次

                   

     トップページ  掲示板  日記帳  リンク 更新記録  メール

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送