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失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録

  その島は滅びず    無人島浪漫紀行 第3回

足元は瓦礫だらけだ。うっかりすると転びそうになる。
よってずっと下を向いて歩くことになる。ところどころに黒い石が見える。
なぜか私は無意識にその一つを拾ってポケットに入れた。


通路はさらに細くなる。数十年前の基準ならこうなるのだろうか?
いや、それよりもこの島に、車両がなかったはずだ。それでか。
逆に子どもたちの遊び場がたくさん会ったような気もする。


下ばかりを向いているのはもったいない。景色を見なくては・・。
顔を上げたその先に、なおも巨大な建物が見える。
心なしか傾いているように思える。だが、不思議と恐怖感はなかった。
                              

                            


 どこを見ても














迷路のように入り組んだ無機質な光景が続く。

               

島を半時計回りに歩いているが、学校から右側の部分は、かつての炭鉱労働に従事していた方の住居である。上の写真にもアパートの入り口が写っている。中に入ってみたかったが、まずは島を一周することにする。

引率の方が、子ども時代の思い出を語ってくださる。それは決して無機質な記憶ではない。かつてはここに子どもたちの声が響いていたに違いない。
この灰色の瓦礫を、出身者はどんな思い出見ておられるのだろう。



目に映るすべてのものを見たく、いけるところはすべて行きたかった。
建物と建物の間に隙間があった。その間も行きたかった。
だが、すさまじい鉄骨とコンクリートの残骸山脈。
すべてが上の建物から落ちてきたのだろうか?さすがにこの中を歩くのは不可能だ。
普段ならいってしまうだろうが、ここは南海の孤島だ。怪我をしてしまってはどうにもならない。

あとで調べたのだがここは銀座街であり、昔は出店や屋根のついた店舗が数多く並んでいたということである。
この瓦礫に木片が多いことからも、店舗の屋根が崩れたと考えられる。

なお左右のアパートの地下にも、スーパーがあった。

その地下を見ることはもはやできない。









私たちはある一つの建物の内部に入った。階段がある。
そこを登っていく。この上には何があるのだろう?

                    
島の中では中規模のアパートのようだ。建物の内部も相当な崩れ方だ。
だが、私たちは途中の階に入ることなく、どんどん上に登っていく。




何階か登った後、不意に光が目に入った。


ここは建物の屋上のようだ。すぐ目の下に海が見える。
そして振り返ると、写真のような光景が目に入った。
縦横に建造物があるために、屋上のそのまた上にも建物が見えるのだ。
                  
私はさらに辺りを見渡した。




遠くに灯台が見える。あそこがこの島の最高所のようだ。




「まだ上に行きますよ。」声をかけられた。
ここは屋上なのにまだ上にあがる・・・?

この屋上の横にさらに上り口があった。ほかの土地では見られない不思議な構造である。
そんなすさまじい作りの階段は、すさまじい荒廃を呈していた。なんだかパニック映画の一幕を見ているようだった。


実は渡航してから数年がたっているため、記憶があやふやな部分も多くある。
たしか、上りきったところに神社があったように思う。お社を撮影するのははばかられたため、その部分の写真はない。





上陸して、2時間ほどが経過した。ようやく、目が慣れてきたのだろう、心臓の動悸がおさまっている。
この巨大な瓦礫の島を頭が受け入れ始めるのに、それだけ時間がかかったのだ。
だが、慣れてきてしまった。この「慣れ」というのは、旅においてはあまり感じたくない。どんなものにも新鮮な驚きをもちたいのだ。




一気に階段を下りて、上陸地点の反対側に到達した。かなり登ったつもりだったのに、下りは一瞬だった。



また、心臓がドキドキいいだした。この上の光景が私に興奮を投げかけてきたのだ。
さっき、慣れを感じていたのがウソのようだ。

この空の青さ。

そして灰色の廃墟の向こうに、島でたった一つ現役の建物が白く光っている。
灯台だ。
この組み合わせの美しさよ。
誰かが意図したのではなく、偶然生まれた廃墟のこの色合いと崩れ方、そして青と白のコントラスト。
理屈では説明できない美意識を私はこのとき与えられた。


視線を右へ向けた。延々と崩れかけた建物が並んでいる。
私たちその向こう側ヘ向かって歩き始めた。



                                          

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