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みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記
2004年夏編 第５回
要はこんな感じで歩いていたわけである。
同じ道を歩くことは、後戻りよりもさらにさらに不愉快である。
重い足取り・・。
ここからの道は平らで歩きやすい。だが、心は暗かった。誰も通らない。時折軽トラックが私を追い抜くぐらいだ。前方に不思議なものが見えてきた。
これがバス停なのだそうだ。そしてその向かいには「三原村」をあらわす看板が･･。
看板が･････！
今日はいろんなことがあって、なんか疲れたぞ。
看板の下に座り込んで、なぜかドラ焼きを食べる（久百々の部屋にあったぶん）。
どれくらい進んだかな？この疲労度からして１０キロは行ったはずだ・・・・。
げ！
たったの3キロやんけ。先は長い・・。
誰も通らない山の道。はるか向こうまで行く道が見える。この不思議な空間・・。
聴こえてくるのはせみの声のみ。普段は大嫌いなあのせみの声も、こんな場面では「命」を感じた。
考えれば悲しいことである。短い命の限りに鳴く声を私たちは不快なものとして聞いているのだ。
下を見ると
いいなあ・・。
こんな淋しい道でも時折民家がある。そしてその家の犬は私に向かって必ず吠える。なぜだろう？
犬に嫌われたおかげで寂寥感がさらに増した。心の中ではなぜか浜田省吾の「もう一つの土曜日」がなっている。
比較的大きな集落に入った。吉井というらしい。そんな名前の友人がいた。あいつ元気かな？そしてそこにも心温まる祈りがあった。
ここで休憩する。
あ、手持ちの水飲み干しちゃった。まあ、どこかに自販機くらいあるだろう。
（実はこの判断が大きな誤りであり、危機を迎えることになる。ただいま午前11時過ぎ。これから3時間が陽射しのデットゾーンと呼ばれる時間帯である。）
山道から街路へ出たことで逆に日陰を失った。そういえば日焼け止めをこんな日にかぎって塗るのを忘れている。
歩き方は機械のようになり、さらに思考も機械のように同じことを繰り返し始めた。
「自販機、自販機、自販機･･。」
杖を持って歩かれた方はお分かりかもしれないが、地面を「コツ、コツ」と定期的にリズムを持って鳴る杖の音は、何かを物語っているように感じることがある。
今回の私の杖の音は「自！販！機！」といっているように思えてしょうがなかった。そしてそれは大変に不愉快な響きであった。
それにしても本当に自販機がまったくない。ふと昨日の宿に食事を共にしたおっちゃんの話を思い出した。今頃思い出した。
「しばらくは自販機も何も無いから、水を多めに持っていかないと危険やで。」
半歩ずつしか進めない。早く進まないといけないのに、足が動かなくなってきた。不意に口の中がすっぱくなって唾液を吐いたが、泡だらけの唾液を見て自分の体の変調を感じた。
向こうから巨大な荷物をしょったお遍路さんがやってきた。久しぶりの仲間だ。
「こんちは、逆打ちですか？」
「ええ、暑いですね。」
「本当に。この先、全然日陰がないですから、水分補給しないと危険ですよ。」
まじ？
十分危険な状態になっている。このお遍路さんに水を分けてくださいなどと、いえるはずもない。彼だって危険な状態なはずなのだ。
手元の時計の温度計を見る勇気すらなかった。
本当に日陰がない。道いっぱいに太陽の光が突き刺さっている。
せみの声もしなくなった。せみは一定の気温を超えると、生命の維持のために鳴くことをやめ木陰で休息を取るという。せみがうらやましくなった。
十分ほど歩いた。もうランチの時間だ。そう、ランチ･･。
ふと道端に日陰を見つけた。これを逃すと本当に死んでしまいそうだ。宿のサザエさんにいただいたおにぎりを三つのうち一つだけ食べる。アスファルトが焼けていたが、どうでもよかった。
道端でのランチももう慣れてしまった。これまで出来なかったことが出来ている自分にふと気付いた。強くなった･･？
ん？おにぎりの包みの中に一本の命を見つけた。
こ、これはヤクルトや〜！ありがとう！こんなものが入っていたなんて！たった50ccが海にも思えた。
また歩き出した。
げ！？
おしっこしたくなってきた・・・。
あかん！今の俺にはおしっこすらもったいない！
さっきのヤクルトがもう排出されようとしているのだろうか？
だめだ！それはゆるさん！
必死でのどの渇きと尿意を我慢しながら歩いた。
いったいおれ、なにしてるんやろ？
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