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 みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 

                         2003年夏編 第14回









                            じっとしていても・・・・・・、



                            みるみる水が迫ってくる。





                            少し後ずさりをして状況を見極めようと思った。

                            道の両脇にわたれる箇所はないだろうか?


                            ない。(前回の写真参照。フラットな状態である)。


                            なんとか爪先立ちでいけないものか?車は無理やり通っている。

                            しかし、それでもタイヤの上の方まで水が来ている。人間ならた

                            めらいもなく膝までつかってしまうだろう。

                            特に中央部の水が深いようだ。道路が凹面状になっているのだ。

                            これを強行突破しても今後の登山に影響が出る。靴の中までぬ

                            れてしまっては、とても歩いてはいけない。





                            皮肉なことに天から降る雨がやんでいた。逆に地上の水は増え続

                            ける一方だ。灰白色の雲と灰白色の洪水、空気までもがこのときは

                            灰色だったような気がする。





                            すぐ後ろに大学生くらいの青年がいた。きちんとした白衣を着ていた。

                            「これでは・・・・・。」

                            「いけないですよね・・。やっぱ。」

                            「どうしますか・・?迂回路をご存知ですか?」

                            「いえ、なんにも。」


                            後ろに私たちを心配そうに見つめているおっちゃんがいた。近所の

                            人のようだ。

                            「あの、僕たち藤井寺に行きたいんですが、他の道はないですか?」

                            「あるにはあるけど、かなりわかりにくい道だよ。なんなら車で送って

                            あげようか?」

                            「お願いします。」私は二つ返事でお受けした。こんなとき歩き遍路と

                            車の関連について悩んだのではないかと、後日友人にも言われたが

                            一切の迷いはなかった。この場合は他に方法がなかったと断じ得る。

                            それだけ状況が悪かったのだ。


                            二人で車に乗り込んだ。

                            「この道はね、もともと沼だったところを道にしたから数年に一回は

                            今みたいに冠水するなあ。でも、今日のはすごいよ。二人ともお遍路

                            さんやね。」

                            「はい、僕は昨日足止めくらって一日中駅前の旅館にいましたよ。」

                            たしかにそうだろう。平地は歩けても、あの台風の中を12番札所まで

                            いける人がいるとは思えない・・。それは死を意味する。(実は一人

                            おられるのだが・・・・・。リンク集をご参照ください。)

                            「今から通る道はね、冠水はしないけど、わかりにくいから地元の人

                            しか通らないんだな。」
 
                          

                               これは車の中からとった写真。もちろん運転手の方には
                                                了解を得ている。なにをとってるんだとお思いだろうか。
                                                だが、こんな写真こそ貴重なのだと私は思う。



                            昨日、半ば狂乱の中通った道が車なら数分だった。私は丁重に

                            礼を言って車を降りた。実は納め札を渡したかったが、当分は必要な

                            いとリュックの奥深くにしまっていた。こんなときのためにも納め札は、

                            すぐに取り出せるところに入れておくべきだと身をもって知った。ガイド

                            ブックにはおそらく書いてあることだろうが、生きた体験で思い知った

                            のだ。



                            藤井寺の納経所はまだ開いていなかった。黄色のカッパを着た男性と

                            もう一人見覚えのある・・・・・・三重のNさんが先についていた。そして

                            大学生の青年と私の4人がこの道を行くわけだ。




                            Nさんは納経所が開くのを待っている。あと二人もきちんと荷物を積み

                            直している。





                            私は・・・・・・ゆっくりと上り道を見上げた。深緑色に苔むした、美しい

                            階段が、どこまでも続いているようにも見えた。今までにも引用させて

                            いただいてる「サンダル遍路旅日記」でも6時間はかかるとされている

                            延々たる山道だ。決して登山未経験ではないが、この重い荷物と、

                            台風の余波が気になる。もう一つ心配事があった。が、この時は

                            思い出せなかった。一番深刻なこと・・・・・・、なんだったろう?



                            



                            歩き出してそれがなにかすぐにわかった。右ひざの爆弾である。

                            激痛ではないが、骨の一番奥のほうでかすかなきしみを感じる。

                            これくらいなら何とかなるかもしれない。



                            路面には夏にもかかわらずものすごい量の落ち葉と小枝が散乱

                            している。ところによっては小枝ではなく中枝が道をふさいでいる。

                            だが歩けないほどではない。このままでいってくれればいいが。




                 



                            すぐに道は平坦になった。一瞬、心が休まる。だが、それは一抹の

                            夢であり、さらに嫌がらせのごとく上り坂になるのだ。


                            うしろから先ほどの青年が来た。

                            「どうぞ先に行ってください。僕、遅いですから。」

                            「あ、お先です。」すぐに姿が見えなくなった。




                            私のすぐ左に川が流れている。普段なら涼しげな清流なのだろうが、

                            今日だけは激流となって、落ち葉や枝、そして不運にも落下した

                            哀れな小動物を飲み込み、無限の水量で踊り狂っていた。



                            その激流が道をふさいでいる。山からの水が道を横切っていた。

                            たいした幅ではないのだが、改めて昨日の台風のすごさを感じた。


               ←水と川の融合状態。



                             



                             道はだんだん細くなる。だが、心細くはない。山道で迷ってはという

                             昨夜の心配も杞憂であった。そこかしこに


                             遍路道  とか  がんばって あるいは 同行二人


                             といった札が下げられている。おそらくは数百年も昔からこの光景は

                             変わっていないのだろう。その歴史に体が引き締まる思いがした。




                             突然、辺りの森からセミの声がいっせいに聞こえてきた。台風が

                             完全に去ったということなのだろう。小さな動物ほど自然の動きには

                             敏感なものだ。


                                  


                             左右の茂みが迫ってくる。それと比例してのぼりがきつくなった。

                             背後に人の気配を感じた。黄色のカッパの男性だ。

                             やはり抜いてもらう。彼の姿もすぐに見えなくなった。


                             


                             

                             幅50センチほどしかない道に、右から巨大な枝が倒れ進行方向を

                             ふさいでいた。だがなんとか潜り抜ける。これまで道に落ちていたの

                             が中枝なら、これは中の大の枝くらいだ。そのうちに、どうせ、大枝が私を

                             邪魔するだろう。だが、進むのだ。




                             20分ほど過ぎた。

                             この道も飽きてきたな。単調だし・・。

                             なにかドラマがほしくなった、そのとき・・・・・、






                             「すいません、今の取り消し!これ、マジでやばいぞ・・。」思わず

                             独り言が出た。だが、その独り言も轟音にかき消された。



 





                             道が川になっていた。

           

                             ちょろちょろと流れてる箇所ならさっきまで

                             いくつもあった。だが、これはその比ではない。










                             ドドドドドドド!地響きすら感じる。









                             山から落ちてきた水がすべて道に集約され、容赦なく近くの崖下に

                             流れ落ちていく。ここを進むと体ごと水に持っていかれるだろう。。

                             回り道をしなければ・・。横を見た。






                             なんということだ・・。







                             大枝が迂回ルートをふさいでいた。






                             さっきから心配していた大枝・・・?いや、枝どころではない。巨大な

                             木が根元から折れ、その豊富な枝がバキバキになっている。

                             それが私の行く道を覆っているのだ。

                             どちらも進めない。





                             ためしに水の中に一歩踏み出した。左足にものすごい圧力を感じ

                             飛沫が私の胸元にまで飛んできた。一瞬バランスを失ったが、右手

                             が折れた枝をつかんで、なんとか体を立て直した。







                             そのとき、私を呼ぶ声がどこからか聞こえてきた。



                             「・・・・・・・・・・・!



                             聞き取れない。



                             「そこ行っちゃ■め、木の■をとおり■さい!」



                             「え?!なんですか?」


                             見ると十メートルほど上の道から先ほどの黄色いカッパの男性と

                             大学生さんが私に向かって何か叫んでいる。だが、よく聞こえない。


                             「そこ★っちゃ★メ!水は危険だ■ら、木の★をとおって!」

                             「聞こえません!もう一度お願いします!」

                    
                             「そこは通っちゃダメ!水は危険だから、木の上を通って!」

                             「わかりました!」




                             あの二人はこの木の上を通って行ったようだ。

                             しかし、相当な高さまで枝が重なっている。大丈夫だろうか?

                             上を見ると二人は私に向かってまだなにか言いたそうだったが、

                             私はこういった。

                             「大丈夫です、先に行ってください。」

                             二人は手を振ると歩き出した。








                             私は手前の枝の上に乗った。一瞬木がしなったが、なんとか上を

                             歩けそうだ。さらに一歩踏み出す。どこかで枝の折れる音がした。







                             今度は右手を上の枝にかける。

                             バランスを保ちながらさらに一歩進む。

                             目の前を飛ぶ虫が不愉快だ。






                             私は下を見た。すぐ横をすごい量の水が流れている。四つんばいに

                             なって進む私はさながら奈落の底にぶら下がったゴンドラのようだった。






                             リュックが枝に引っかかった。無理に引っ張ってさらに進む。

                             汗が目に入ってくる。それをふくことなどなどできない。

                             それより突き出した枝が目に当たらぬかが心配だった。カッパの

                             ポケットにサングラスが入っている。無論、取り出す余裕もない。








                             あと、50センチほどだ。右足を踏み出したとき、枝がおれて体が

                             大きく傾いた。

                             リュックが上の枝に引っかかってうまく体が止まったが、

                             ここへきて、右膝に痛みを感じた。だが、戻ることなどできない。

                             もちろん逃げ道すらない。前進にのみ望みがあった。



                             この期に及んで一人で歩いていることに恐怖感を感じた。

                             こんなとき連れがいればどれだけよかったろう?さっきの

                             二人は?見上げたが、人の姿はなかった。





                             足がすっぽりはまらぬように、注意深く枝を踏んでゆく。






                             左足が地面を再び踏んだとき、気が遠くなりそうだった。

                             わずか数メートルを進むのに、数距離分のエネルギーを費やした。

                             時間は8時過ぎ。



                             総行程6時間のうち、


               残りはあと、たったの5時間・・・・・!




                                                  

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