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みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 第一部 第8回



                         道は人が通らねば死ぬと思った。家が住人を失ったら朽ち果てるとは

                         よく言う。

                         道だってそうだ。

                         数は少なくとも、そこを通り、時には迷い、語りあう命ある人がなければ

                         死んでしまうのだ。


                                 
                         嵐を間近に受けた道には誰もいなかった。


                         この感じはとてつもなくさびしい。見通しのいい道なのだが

                         本当に誰もいないのだ。今、この道は亡骸のようであった。時間が遅く

                         なるか、あるいは天候が回復するとまた生き返るのだろう。

                         私は今、死んだ道を歩いている。

 


             



                            早朝の遍路道。空からは朝もやにまぎれながらも雨の粒が無限に落ち

                          てくる。どこまで旅人を悩ませるのだろう、この台風は。




                          でも、私は出発することにした。上の写真ではどうも伝わりにくいのだが、

                          見渡す限りの水の広野であり、轟音を立てて雨が降ってきていた。




                          この旅で自分を変えたい、いつしかそんなことを考えるようになっていた。

                          今のペースだと、かの難所は台風明けに登ることになる。台風の

                          真っ最中に突き進むのがいいか、それとも台風明けの方がいいのか?

                          決まっている。どっちも危険だ。





                          札所の間もこれくらい近ければいいんだけどな。

                          7番霊場はすぐであった。






                             
                                      
雨の七番霊場 十楽寺 8日 7時23分


                          お寺にも誰もいない。もしかしたら納経も一番かな?順番なんて

                          もうどうでもいいんだけど、そこは未熟な私、結局はそういうことを考えて

                          しまう。



                            これで納経8回目。私は納経所の雰囲気が好きになっていた。

                          ほとんどの方が笑顔で迎えてくれる。そして何かと話しかけてくれる。

                          このときもそうであった。

                          「お兄さん、歩いてるの?」

                          「はい。今日は11番のお寺まで行くつもりです。」

                          「うわあ、ちょっと苦しいかもね。20キロだから普通ならいけるはず

                          だけど、これ見てよ。」

                          傍らのテレビには思いっきり嫌がらせのように台風の予想進路が

                          不気味に映し出されていた。



                          再び遍路道へ。

                          進行方向の上空には黒い雲が動いていた。白い雨雲ならなんとなく

                          雨がやむ気配を感じるのだが、それは漆黒であった。あの下あたりが

                          今日の目的地の11番のような気がする。

                          私はそこへつっこんでいくのだ。その判断が正しいかどうかはしらない。





                          昨夜寝るときに悩まされた筋肉痛は一晩寝たことで治まっていた。


                          本当にかゆいところに手が届くとはこのことだ。曲がり角のみならず、

                          少し歩いて心配になった頃にかならず遍路シールがはってある。

                          これを設置した人もやっぱり私のように歩いたのだろうか?一人なの

                          だろうか?それとも仲間がいたのだろうか?なぜか、髭を生やした

                          やさしそうなおっちゃんが貼ってる光景がふと幻に浮かんだ。



                                       

                                                 名前も知らない川での写真。橋が揺れるくらいの泥流が流れていた。





                         少し歩いていると廃屋となった店屋の軒先で雨宿りをしている

                         おばあさんがいた。バス停でも店屋でもないのだから雨宿りだろう。

                         一度通り過ぎたのだが何となく気になってもどってしまった。



                          「あの、なにしてるんですか?」思わず口から出た。見たらわかるのだが。

                         おばあさんは「なに?」という一瞬いぶかしげな顔をしながらも、笑って

                         答えてくれた。

                         「雨がね、ひどいでしょ。傘をさすのも大変だからやむのをまってるの。」

                         「でも、台風だからこの雨やまないと思いますよ。家は遠いんですか?」

                         「その向こうの角を曲がったところやから近いと言えば近いけどね。」

                         80才をとっくに超えた感じの人だ。でも、しわがいっぱいある顔の中に

                         優しさがでている。思わず言ってしまった。

                        「おばあさん、僕が傘、持ってあげましょうか?」

                        「いいよ、お兄ちゃん。お遍路してるんでしょ?おばあちゃんは大丈夫

                        だから、行きなさい。」



                        どうしてもいけなかった。別にそのままいってもこのおばあちゃんが

                        どうなるとでも言うわけでもないのだろうが、なんだか気になってしょうが

                        ない。風も強くなってきていた。

                        「僕はいいから、おばあちゃん行こう。傘、持ってあげる。」言い出した以上

                        なんかもういけなかった。

                        「いいの?お兄ちゃん。」おばあさんは立ち上がった。びっくりするほど

                        足が遅かった。確かにこれでは雨の中歩くのは無理かもしれない。

                        そして、おばあさんの家はこれも驚くほど近かった。普通に歩いたら

                        数分だろう。でもおばあさんのペースにあわせたので十分以上の

                        道のりだった。


                        家に着いたとき「ちょっと、まっとってね。」とおばあさんは言って中へ

                        入っていった。言われたとおりに待ったのだが、なかなか出てこない。

                        雨が強い。寒くなってきた。


                        3分近くたってやっとでてきた。

                        「おなかすいたら食べてね。」と私に持たせてくれたのは少しつぶれて

                        紙にアンがこびりついたようなモナカだった。誰かにもらったのだろう。

                        おそらくは大事に大事にとっておいたにちがいない。でも、これはもらう

                        ことが孝行であると思い、ありがたくちょうだいした。




                        私は歩き出したのだが、おばあちゃんは雨のかかるところで私に手を

                        合わせている。早く中に入ってほしいのに。でも、まだおばあちゃんは

                        外にいる・・。



                        果たして私は正しいことをしたのだろうか?あまり意味のあることをした

                        訳でもなかったような気がする。

                        ぬれたおばあさんの姿を思うと、今でも胸にうずくものがある。







                       つぶれたもなかはその後、札所で休憩した際にきちんといただいた。

                       そしてこれも意味のない感傷からなのだが、その紙はいまでも捨てずに

                       納経帳や数珠と一緒にいまでも私の引き出しの中にある。






                       いかにも新しい看板が8番札所の位置を示していた。このころから

                       私は自分の歩くペースがわかってきていた。時計を見つめながら

                       歩いてると、大体1時間に4.5キロくらいだった。この分なら、8番には

                       あと1時間くらいだろう。ただし、登りでなければ・・。

                       私は登り坂にどうも弱い。極端に遅くなるのだ。やはり体力のなさか。




                       そんなことを考えるとやはり現実となって襲いかかってくる。

                                 

 ← 四国8番霊場 熊谷寺 ○○キロ




                       道路標識が出ていた。その←の向こうはすごい坂だった。くそったれ!

                       こういう看板は車用のものである。○○キロの中に入る数字は覚えて

                       いないが、たいした数ではなかった。が、歩きとなるとその高低が

                       重要なのだ。

                       歩き遍路のためにも願わくばこういう看板が望ましい。

 

  ← 四国8番霊場 熊谷寺 登り○キロ 





                       いかにも車用につくられたゆったりとしたカーブを描いた登り坂が

                       続く。

                       私の横をびゅんびゅん車が抜いていく。あれ?さっきまで誰もいなかった

                       道なのに・・・。これはお遍路さんが乗っているのだろうか?それとも

                       通勤者なのだろうか?


                       だらだらした登りはやがてT字路にぶつかり、そこを右に曲がると

                       やがて、8番霊場が見えてきた。

                       素晴らしいことに門をくぐるとすぐに納経所があった。全部、こうだと

                       いいのにな。





                       ずぶぬれだと、納経所に入るとき、どうしても躊躇する。本来は屋外で

                       合羽をぬいで入室するのが正しいのだろうが、疲れ切るとそうもいかない。

                       そのまま入って納経をしてしまった。

                       「本堂にはもう行かれましたか?」

                       「ドキ!・・・・・・・いえ、まだです。」

                       「この向こうの坂を上ったところにあるから行ってきてね。」

                       「は、はい・・・。」


                       坂の上〜!?この期に及んで・・・・。ふと見ると納経所のすぐ外に

                       誰かのリュックがおいてあった。おそらく、その本堂に登られてる

                       正しいお遍路さんの荷物であろう。



                       ここで告白する。私は8番札所に関しては、納め札を入れるのを



                      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぼりました!
                              

                      お遍路さんの経験のない方にはなんのこっちゃかもしれませんが、

                      大師堂と本堂にちゃんとお札をいれて、お線香をあげたりお経を

                      唱えたりしてから、納経といって帳面に筆で一筆お寺の証書をかいて

                      もらうのが正しいお遍路のやり方なのですが・・・・・・・、






                                  
                                                


反省文

坂道が大っきらいな私は、8番札所では

大師堂も本堂も行かずに、納経だけして次へ

何食わぬ顔をしていってしまいました。

二度とこのようなことがないように

 いたしま・・。



2003年 8月 吉日     ピースケ






                      おそらく大多数のお遍路さんからするとよろしくないことなのでしょうが、

                      この際ですから包み隠さず真実をおはなしします。



                                

                                  
8番札所 熊谷寺 8日8時31分



                     でもって何もなかったかのように記念写真を撮っている・・・・!

                     しかしかなり顔は疲れてるのがおわかりでしょうか??

                     このときは完全にずぶぬれでした・・・。だから許してチョンマゲ。





                     ということで、再び歩き始めた。雨は一瞬小降りになった。だが

                     安心するほどもう私はウブではなかった。絶対すぐに本降りに

                     なるに決まっている。

                     何気なく振り返った。かなり大きな山門がある。ここは88カ所中

                     最大の山門だという。写真を撮ろうと思ったがなぜかシャッターが

                     おりなかった。




                     あきらめて歩き出す。






                     おお・・・・・・下りではないか!すばらしい・・・・・。だが、経験された

                     方も多かろう。登りより下りの方が足に負担をかけるのだ。





                     右膝にものすごい激痛が走った。思わずしゃがみ込んだ。



                                                                 





                                                       

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