天空の街へ ペルーひとり旅
第24回 不幸のズンドコ
ここ数年の経験からわかるのだが、旅から帰って思い出すのは美しい景色でもなく、ご当地グルメでもない。追慕の大半が出会った人々のことだ。
たとえ飯がまずくても、共に食べる人がいればその時間は思い出したくなるものになり、景色があんまり美しくなくてもそれを共有できる人と出会えれば、思い出そのものは美しくなる。
クスコでも寒風にふるえつつも初めて出会った旅人たちと、忘れえぬ一夜を過ごせたのは昨日のことだ。
そして今、このゲストハウスにたくさんの旅人がいる。
一度に6人が入ってきたけど、てっきり一人旅の人が偶然同じ送迎車に乗ってここまで来たものと思った。
「こんにちは。どちらから来られたんですか?」
「ああ、私たちは●●からですよ。」一人の人がこちらを見ずに返事をした。
その言葉の私「たち」に俺のセンサーが反応した。
皆さんが談話室のソファーに一斉にドカドカとお座りになった・・・。
「かんぱーい!!」
うそ〜?
カバンからビールが出てきたじゃないか。
かくして宴会の開幕となった。
皆様は、一つのグループだったのだ。
狭い狭いゲストハウスの談話室は彼らだけのお楽しみ空間となっている。
ここは、旅人が集まる相部屋中心のゲストハウスである。
私がゲストハウスに好んで泊まるのは、お団体様と遭遇しないためでもある。
一人旅どうして語り合いたい。福島のMさんともここで先週お会いしたのだ。
小学生のT君ともここで遊んだ。みんな個人で来ている。
むろんグループや団体を全否定はしない。だが小さな場所を完全に占領するのはどうかと思う。
相部屋や談話室をグループでつかったら他の人はどうなるかについては考えていないのだろう。
だから宿での第一声が他者への「こんにちは」ではなく、自分たちだけの「かんぱい」なのだ。
皆様はソファーに座っていた猫を床の上に追い出すと、当然のように自分たちが座った。
昼寝中の猫は、かわいそうに寝る場所を奪われどこかへ歩いていった。
そこからはもう自分たちの宴会をお楽しみになっている。
私と猫以外にもう一組、お団体様に追いやられた方がいる。
DVDを見ていたカップルである。(まだ見ていた!たぶん6時間くらい部屋でDVDを見ているのではないか?)
お2人は顔をしかめてお団体様をにらむと、二人の距離をますます縮めて、もっと正確に言うと体を密着させて、さらにさらにDVDの世界に没頭していった。
そんな彼らと私に気づくよしもなく、どんどん団体のテンションは上がっていく。
「わははは、ペルーのビールはうまいな。
あ、こぼれたわ!」
誰かがビールをこぼすとテーブルの上にあった情報ノートがぬれた。
一人がそのノートをつまむと、
邪魔そうに床の上においた・・・。
これまで幾重にも旅人によってつづられた情報ノートは、お団体様には不必要な存在なのだ。
テーブルは情報ノートを書き込んだり、旅の日記を書いたりするためではなく、ビールを並べるための場所なのだ。
数日前のこの談話室は、一人旅同士が過ぎし日を語り、来たるべき次の旅を語り合う空間だったが、今や
おグループ様の宴会会場兼
おカップル様のDVD鑑賞室に
変更された。
寒い・・・・・・。気分は不幸のズンドコだ。
もちろん当事者に悪意はないのはわかっている。
だが、些細なことにも敏感になる旅モードの私には実に辛いシチュエーションだったのである。
猫や情報ノートに心を寄せず、邪魔なものとしてそこから排除する集団になじめそうになかった。
この寒い雰囲気の中にいつまでもいると殺意を覚えるので、部屋を出た。
さっき追い出された猫が、外の壊れた椅子で昼寝の続きをしていた。
俺も再び街に出よう。しばらく宿に戻るまい。
いつの間にかあたりには夜が近づいてきていた。ペルーにやってきて何度目の日没なのだろう。
歩き続けているうちに空腹を覚えてきた。
昼間入ったような定食屋は辺りには見つからず、ある程度高級な食堂が散見された。
値段を外に張り出している店があったので、ここにしようかな。そのほうが安心なのだ。
少しずつ覚えてきたスペイン語でステーキを注文した。
この山盛りポテトはペルーの食堂での定番である。
実は明朝4時半のバスでナスカへ向かうのだ。今はまだ9時前だがそれでも6時間も寝られない。夜のお散歩を終えて宿に戻ることにしよう。
露店でバナナを買った。朝食用である。
もしかしたら宿は別の状態になってるかもしれないという期待などがかなうはずもなく、
いまだに「わははははは、ペルーバンザーイ!」という声が談話室から聴こえてきたため、私は静かに自分の部屋に入った。あのカップルも絶対にDVDをまだ見ているに違いない。
おカップルにとってのペルーはDVDであり、グループにとってのペルーはビールなのだろう。
私にとってのペルーは明日のナスカの地上絵だ。
その地上絵を見るためにすぐにでも寝てしまおう。ベッドに転がりこんだ。
もちろんその後の展開は予想通りだった。
やっぱり今回の続きたくない
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