第23回 道、ポニー、ひとり
重要な決意をしてから就寝。
本州の道の駅で野宿をするとひっきりなしにトラックがやってきて眠れないことも多い。
だが日本最東端近くのこの道の駅にはほとんど車は来ず、静かな夜となった。
そして「晴れたら旅続行、雨なら旅を断念」という一世一代の決意は決して破るまいと誓いつつ夢の世界に落ちていった。
翌朝。
おおおおおおお!これは!
曇り!
昨夜の決意「晴れなら旅続行、雨なら旅を断念」の中で、曇りについてはまったく考えてなかった。
これはどうしたらいいのか・・?
そうか!
「一応旅を続けるけど雨が降ったらいやだし晴れたらうれしいという気持ちを持ってチャリをこぎ続ける」ということにすればいいのだ、などと訳のわからない結論を出した。
この旅で私は自分の弱さを実感していた。
たかが一週間雨が続いただけで、何ヶ月も楽しみにしていた旅を簡単に途切れさせようとしていたのだ。
いや、それ以前にも宿に泊まった自分を責め、坂道では半泣きになっていた。
北海道のチャリ旅は己が弱さを知らしめるために始めたようなものとなってしまっていた。
でもこれでいいのかもしれない。どこかで自分が鍛えられていると信じて、また私はチャリにまたがった。
温根沼を越えた。
駐車場の横で、ご夫婦に声をかけられた。
「待って、これ食べていって。」とうもろこしを差し出してきた。
「昨夜、雨がひどかったからここで車中泊したの。それにしても道を走ってるときは高校生くらいかと思ったけど、そうでもなさそうね。大学生ね。」
「いえ、社会人です。」
出た、この旅中のこのうれしいお言葉をこの北の大陸でも聞けた。
くたびれた社会人なのだが、こうして旅に出ると学生と間違われることこそ、自分が修理されている証拠なのだといつも勝手な解釈をして自分を励ましている。
道はまだつづく。
納沙布岬までは完全な一本道である。
おそらくは素敵な景色が広がっていることだろう(晴れさえすれば)。
でも、俺は俺の旅をスタンスを今一度思い出していた。
人との出会いである。
この道の向こうに旅人同士の出会いはあるだろうか。
まだ道は続いた。
無意識にカバンからサングラスを出したことで、周りの状況に気づいた。
まぶしさを感じたということは・・・・・?
きったああああ!
数日振りの青空。
この色である!旅の色である。旅に不透明な灰色は似合わない。やはり抜けるような青こそが「前に進む」行為にふさわしいのだ。
左を向いたらこんな光景が広がっていた。
なぜか秋を連想させる雲がそこにあった。
右を向くと雨から解放されたのだろう、
ポニーたちが光の中で草を食んでいた。
正面を向いた。どこまでも行きたくなる道が
俺を呼んでいた。
さあどこまでも行こう!
と、言いたいところなのだが、俺は前へ進まずに 右へ進んでしまった。
だって彼の呼び声は道が俺を呼ぶ声よりも大きかったからだ。
俺を呼んでいたもの。
このポニー牧場はドアを開けて自由に見学してよいのだ。
中に入るとポニーたちは人の存在には目もくれずに、やっぱり草を食んでいた。
お願い、ちょっとだけこっち向いてくらさい。
あ、向いた! かしゃ!
どうもありがとう。
いいなあ、この寄り道。
すぐ向こうの国道を観光バスが通り過ぎていった。
チラッと中が見えたが、どの方も一服盛られたかのように眠りこんでおられたように思う。
日本最南端の石碑の前で整列をして記念写真をおとりになるためにここまで来られたのだろう。
俺はポニーを追い掛け回して一人で写真を撮っている。
一人であるけれど、その感覚を今は楽しもう。
この道を行けば、最東端である。
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