第17回 知床岬の東へ (知床羅臼キャンプ場)


俺は今牛乳の中を進んでいる。くだり楽だと思ったがそれは間違いであった。
猛烈なスピードで進んでしまい、余計に怖いのだ。

またふと誰かに呼ばれている気がした。
さっきの鹿だろうか?

路傍にこんなものがあった。                                        雑草。

寒さにふるえ、天気におびえながら、
一人でチャリをこぎ続けた小さな旅人だからこそ、
小さな命に敏感になれるのもしれない。


遍路のときにも感じたのだが、

この「敏感さ」こそが、

自力で進む旅人にのみ与えられた特権なのだろう。





それにしても寒い。
寒さに敏感にはなりたくない。


こんな日は温泉に入りたい。


温泉・・・・・・?
目の前の看板にこう書いてあるじゃないか。


  
    「熊の湯」 無料


無料!?

なんちゅうええ言葉やねん。無料(タダ)と聞いてはいらんわけはないやろうが。
上等じゃ、かかってこんかい、ワレ。
え、言葉がおかしい?おかしないわい、ワイは大阪人やで。
これが普通じゃ。タダって言葉で俺は大阪人に戻ったんじゃ。ドアホ。

ってことで俺は喜んでこの熊の湯に入ったっちゅうわけや。
しかし大阪弁で入力するとめちゃくちゃに漢字変換されるやんけ。


ごっつうええ温泉やったで。かなり熱かったけどな。白くにごっていていい感じの湯やったわ。
そして目の前にはキャンプ場があってん。

ここは国立公園知床羅臼キャンプ場にある温泉やで、しかも値段が300円やねん。
ホンマはタダがええねんけどな。まあええわ。これ以上進んでも何もなさそうやし、今日はここを寝床とするわ。


                                
ここはかなり広大なキャンプ場である。その大半が車で来ている団体様であった。

俺はまた一人であった。

とおもったら、温泉で一人旅の人と知り合った。千葉のライダーNさん。

互いに「お、一人旅ですね」って感じで話を進めることができた。

一人旅は淋しいのが定石なのだが、人との出会いもまた作りやすい。自らがグループを持っていないからだ。

Nさんとはいろんな旅の話をすることができた。お遍路にも興味をお持ちらしい。


二人のテントサイトはすぐそばだった。

そしてそのすぐそばのすぐそばに、ご夫婦がキャンプをしておられ僕たちに声をかけてくれた。

愛知県のEさんご夫妻。一緒に呑もうといってくれた。


さらにすぐそばのすぐそばのすぐそばでキャンプをしておられた東京のTさんにも声をかけた。

結局同じエリアでキャンプをしていた人たちみんなが集まることとなった。


すぐそばつながりで集った一夜。

いつまでもしゃべり続けたかったけど、眠い・・。



「ああ、チャリは疲れますよね。気を遣わなくていいですよ。どうぞ休んでください。」

みんなこういってくれた。


しゃべりたいけど、限界でした。

すいません、おやすみなさい。



おやすみなさい・・・・・・。



ぐっすり寝た




はずが、数分後に目が覚めた。






ガサ!
    ガサ!
      
ガサガサガサ!!!



何、この音?



俺のテントのすぐそばに何かがいる。




もしかして、ついに
熊?



やばい!



とっさに携帯を手にした。



うそー!?電池切れで真っ白だった。





ガリガリガリ!何かをひっかく音がする。

熊がつめをといでるに違いない。

あの時一緒に呑んでいた人たちはどうしたんだろうか?



「おーい!大丈夫ですか?」俺は叫んだ。


血が逆流するのがわかった。誰からも返事がない。みんな熊の犠牲になり俺ひとりが生き残ったにちがいない。

北の大地よ、あなたが私をわなにかけた理由はここにあったのですね。







そういえば今何時だろう?

ほんの数分、寝ただけのような気がする。まだ早い時間に違いない。

熊の隙をぬって走れば、まだ管理事務所には誰かがいるに違いない。

ものすごい勢いで走るのだ。私は一計を図らしめた。

失敗などかんがえなかった。ここにいるだけではいつか熊がこの薄いテントを破ってしまうに違いないのだ。

走る抜けるしかない!




息を吸い込んだ。







テントのファスナーを開けた!!








おーりゃ!熊さん、どかんかい、われ!!











いけー!



はたして・・・・・・


テントのすぐそばにこいつがいた。




かわいい鹿さん。草を食べてる場合じゃありません。

あれ?熊さんは?

それ以前に、なんで明るいの?
みんなは襲われなかったのか??




「ピースケ君、昨日はすぐに寝たみたいだね。それに、今朝方すごく叫んでたよ、うなされたの?」
昨日の夜、集いあった人に言われた。
「あ、うん。ちょっと疲れてて、怖い夢見ちゃいました。」
「だいじょうぶっすか、チャリは疲れますからね。ピースケ君は体力なさそうだから、がんばってよ、これからも。」



俺は一瞬眼をつぶっただけに思ったが、その刹那寝てしまい朝を迎えたのだ。
そして鹿さんが草を食べる音を熊が襲ってくる音と思い込んで叫び声をあげたのだ。

つまりは、俺は、つまり・・・・・、

あほ~!




お別れのときが来た。
当たり前だけど、旅先で偶然お会いした人とは翌朝には必ずお別れすることになるのだ。





最後の一枚。
みんな、雨合羽を着ているのがお分かりだろう。
すでに雨が落下してきていた。



「じゃ。」それぞれがあっさり言ってお別れをした。


千葉のNさんは南を目指し、東京のTさんは西を目指し、
大阪のピースケさんはこれからさらに北を目指すのだ。


彼らとは、あれ以来お会いしていない。




これからどこを目指すか?
知床岬の突端である。道がない。チャリをおいてトレッキングをすることになる。


                                       

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