第16回 知床岬の頂上へ


北の大陸は最初から俺にわなを仕掛けていたにちがいない。

うに丼、まっすぐな道、青空、大自然、そんな魅力ある単語で俺を誘い出していた。
単純な男はわなにかかり、いそいそとやってきていた。

ここへきた単純な男は、ユースでおっちゃんたちに罵倒され、眠りを妨害され、摩周湖を霧で隠され、
カムイワッカの湯には入れず、知床五湖を封鎖されてしまった。

しかし旅の前半のクライマックス、知床岬横断だけは青空の下でできる。
今日の午後はついていなかったこの旅を反転させるチャンスであり、すばらしい光景を見られると信じていた。

しかしその青空すらが、わなであったのだ。(写真にカーソルをあててください。)
        

この空を見てわれの進む道への不安を感じないチャリダーはいまい。お分かりだろうか。
こんな天候の境目がある光景をはじめてみた。
進む方角がすっぽりと雲に覆われている。


あんまりだ!!!


チャリをこぎながら俺は本気で叫んでいた。



だが進むしかない。
そこに黒雲のわなが仕掛けられているとわかっていても、後戻りの余裕などがないのがチャリ旅のチャリ旅たる所以なのである。。



隠す必要がないと判断したのだろう、北の大陸はこのジャストの標高のところで、わなを明らかにした。
      
もはや空は真っ白である。
このまま白でいてくれればいい。灰色とか、になるともっと状況は悪くなる。
たぶん白のままであると信じたいが、私はそんなウブな心は捨てていた。今は。


しかしそれは思ったとおりになってしまった。

道のすぐ向こうが灰色になってしまっている。しかもついでに上り坂だ。

さっきまでこんな青空だったんですよ。(再掲) 
ね、これでいいじゃん。

だのに付きまとわれるように悪天候が俺を悩ませる。
絶対に誰かに見張られてる気がする。

実際に誰かに見られている気がする。
右の森からの視線を感じ目をやるとこいつがいた。

もしかしたらこいつは北の大陸をよそ者から守る獅子神かもしれない。
北の大陸にわなを仕掛けていた張本人に違いない。


そんなことを考えているうちに、本格的に視界が悪くなってきた。
         




いつの間にか観光客の群れの中に突入してしまっていた。
バスで訪れる観光客は「見所」だけをご覧になる癖があるように思う。
つまりはここは「見所」である頂上だ。

体が汗でびっしょりだ。あるいは霧による湿気なのだろうか。

私もとりあえずは「見所」で観光客として撮影。
              
本当にまっ白だ。頂上だけど下がまったく見えない。

「うー、さぶいなあ。」
「ほんまや。」
「写真撮ったら早くバス乗ろう。暖房ないとやってられへんわ。」
観光バスは暖房をつけて走っているのか。
俺にとっての最大の暖房器具はこの雨合羽であった。

これから進むべき道はこうだった。
白から灰色へと移行していた。数メートル先が見えない。



試練、悪条件はこれだけでも十分だ。

しかし北の大陸のわなは奥が深く、さらにまだ仕掛けられていたのである。
                
                                              ちゃんとつづく

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