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 自由と決別するとき 僕らの最後の冒険
               
      地図を持たずに適当に、どこまでも、いつまでも・・・

                    
後編(のPart2)


ジュワ〜。


肉の焼けるうまそうなにおいがする。多少網にこびりついているヘンな物体と、金網がなぜか茶色なのが気になるが、まあよい。
朝からバーベキューなんて後にも先にもないだろう。でも、なんだか楽しい。馬鹿をやってるという自覚は大いにあった。
それでもよかった。これでいいのだ。
                 


「キャベツものせるで。」
「でも、それ洗ってないやん。」
「じゃあ、川で洗ってくるわ。」私はキャベツの塊を持って川原に下りようとした。
「それ、ええんかな?」一樹が言った。
「どういうこと?」
「農薬が、川の水に混じるやん・・。川に悪くない?」

言われてみればそのとおりのような気もするし、なんか違う気もする。でも、下流ではこの水を飲用してる人がいるはずだ。
「そのまま食おう、多分、農薬も遠慮してくれるよ。どっちにせよ、この網だって・・・・・普通じゃないし。」
後にも先にも、洗わないキャベツを食べたのはこの時が初めてだ。はっきりいって気持ち悪かった。
でも、これでいいのだ。
一樹の川を思う気持ちには驚いた。
普段馬鹿をやってるやつがこんな深い思いを持っているとは知らなかった。

顔は汚い
のに。


肉とキャベツだけの朝食は終わった。
網にこびりついている得体の知れない黒い物体は何だったのかは最後まで分からなかった。

片づけをして車に乗り込んだ。
数分後、洋一は網をもって車を降りた。そして元の場所に網を戻した。
また車は走り出した。

  朝食の献立
                                       
  賞味期限の過ぎた肉
  農薬キャベツ
  味付け・・・なし(タレを買い忘れた)
  網・・・・・・・粗大ゴミ置き場にあった錆びたやつ
   

                     これでいいのだ

日が高くなってきた。が、それは推測である。
朝方は晴れていたのに、空には厚い雲がいつの間にか覆いかぶさっていた。
そのためだろう、半そででは鳥肌が立つくらいの気温となっていた。
8月といえば夏と思いがちだが、盆を過ぎるとやはり秋の気配が空気の半分以上を占めだす気がする。
今日はまさにそれだった。

「なんか夏の割には寒いよな。」
「この天気ではな。」
「で、いまから何する?」
「決まってるやん、この寒さやからこそ・・・。」
「寒さやからこそ、この川で泳ごうぜ!」一樹が言った。





「あほか!」




とは誰も言わなかった。





「いいねえ!8月の寒中水泳!」




三人とも何も躊躇することなく水に飛び込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



















水が冷たい。これでは点が一個多い水のようだ。それでも私たちは十分楽しんだ。
この旅何度目の馬鹿な行為だろう?
だが、そんな「馬鹿をやっていること」の自覚がなぜか心地よく、三人の心を通り抜けている。

水の中で洋一が泳ぎながら言った。
「あのさ、ピースケ、社会にでるってどんな気持ち?やっぱり怖い?」
「そうやなあ・・。怖いって言ったら怖いけど、給料はもらえるしいい面もあるよ。でも、やっぱ俺は学生のほうがいいなあ。」
実はこのときそれぞれのポジションはばらばらだった。私は社会にでていたが、洋一は学生であり、来年就職することが決まっていた。一樹はバイトをしてその日暮らしをしていたが、いよいよ明日から正社員となるのだ。我々を遊びに誘ったのも、最後の悪あがきがあったのだ。

「夏休み、なくなるねんなあ・・。会社員になると。」
「そうやねん。そればっかりはな。」
そして洋一が水に浮かびながら空を見上げていった。



「大人にならなくてすむ方法ないかな?」



これこそが私も10代後半からずっと思い続けていたことである。
生きている限り必ず大人になる。
それを喜びととる人と、大人になりたくないなあと思う人、どちらが多いのだろう?
知りたくてしょうがない。


                              
                                水から上がってとった記念写真

今回の旅はバカバカしかった。地図を持たずにむちゃくちゃに爆走して、どこかの山奥にたどり着いた。
そして拾った金網で、農薬まみれのキャベツを使って朝からバーベキューをし、寒い晩夏に水に飛び込んだ。
こんなこと、立派な社会人ならしないだろう。

そう、社会人ならしない。だから僕らのこんな遊びもこれで最後なのだ。

これは僕らの子どもへの決別の挽歌なのだ。


いつの間にか空が赤くなっていた。もうすぐ一日が終わる。休みが終わる。

私たちは車に乗り込んだ。
早く家に帰ろう。一日が終わると休みの終わりを強く感じてしまう。
だから、一日が終わる前に、旅を終えてしまうのだ。

車はすべるように走り出した。


こうして僕らの旅は終わった。










                                      終わり

















に出来るわけがない。




「なあ、俺、まだ帰りたくない。

だって帰って寝てしまうと、明日が来るんや。

だから、頼む、もう少しだけ、俺に付き合って。」





明日から正社員となる一樹が言った。
「俺もそう思ってた。」実は私の夏期休暇も今日で終わりだったのだ。明日から出勤だ。


だから、



まだ帰らない。ここがどこだか知らないが、まだまだ異郷の地でバカをやりたい。
もっと子どものままでいたかった。夏休みを楽しみ続けたかった


そして、この願いはかなった。

   後編 Part2の上 終わり

                   後編 Part2の下に続く



             

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