みんな、ありがとう 普段着お遍路の記 
                                 2003年冬編 第18回
                           (土佐市街地、35番清滝寺)
この旅において、四国にいる間は普通のお遍路さんがすることを一通りしてみたかった。
お寺の鐘を突いたのも初めてであり、考えればお経を唱えたもの初めてだ。

そしてお接待という体験もできた。見ず知らずの方に何かを頂くというのは、遍路になれた方ならごく日常的なことなのかもしれない。
ただ一つ体験していないのは車接待だ。残念ながらまだ声をかけていただいていない。
いやこの場合は幸いに、というべきだろう。
歩きにこだわることと、人の好意を辞退することを天秤にかけるのは、私にとっては辛いことである。だがこの心配もしなくてすみそうだ。今回のゴールが見えてきたからである。



遠くのゴールが見えた気がするのに、目先の35番清滝寺がなかなか見えない。いや、正確に言うと、どうも・・・・・さっきから・・・・・見えているようなのだ。

しかしそれを認めたくはない。

なぜなら・・・・・・・・

あの山の上に見えているのがそれっぽくて嫌なのだ。また坂を登るのか!?
できれば勘違いでありますように。もちろんそれは勘違いでもなんでもなく、事実であった。
      当時の日記より

      まさか山の上のほうに見えてるアレ?

      ゲ!!

      だいぶ上やぞ。

      脚が痛いよー。



そして私が考えているよりも、まったく清滝寺には近づいていなかった。このとき、ちゃんと地図を見る聡明さがあれば、見えているのにつかない理由も分かったはずだ。この辺りは土地開発が進み、古来とはルートが随分変わってしまっているようだ。
だが、生まれて一度も聡明とは呼ばれたことのない私は、見えてるからすぐにつくはずだという、これまでの人生で信じてきた常識を盲信し歩き続けた。



知らない間に遍路道は、空海の時代より何十万人の足で踏まれた、赴きある旧道へとかわっていた。おばあさんが大きな犬を連れて私とすれ違った。この道はやはり先ほどの山の上に続くようだ。左右にみかん畑が広がっている。
歩く人を包むような優しい坂道は、やがて厳しい急坂へと変わり、そして死の階段へと進化した。

この段階で私は長袖Tシャツ一枚である。
真冬の大晦日イブにこんな服装でいられる暖冬、バンザイ!


一歩歩くたびに、汗が100滴くらい流れる気がする。さっき喜んでいた暖冬は上り段では凶器となるのだ。それにもう飽きるくらい書いてきた膝の痛みは、脚の存在そのものの痛みへと変わっている。
おそらくは10000滴くらいの汗を流したところで、35番霊場、清滝寺到着!


                     疲れた!!

      
                    12月30日 13:46 四国霊場35番札所 清滝寺到着
この気力のない写真よ。このHP初のバチあたりポーズである。でもちゃんと恒例の札所番号を指で指しているところが、またしぶとい。

玉砂利の敷き詰められた境内を歩く。もちろん手順どおりに、

1 本堂へお参り(もちろんお経を唱えて、納め札を入れる)
2 大師堂へお参り(同上)
3 納経


と行くつもりだったが、単純な私を喜ばせるものがこのお寺にはあった。
           
なんと消防車だ。お寺の中になぜかある。そしてそれはこんな役割を持っていた。
      
看板がぶら下がっている。なるほど。これは看板をぶら下げるためにここにある・・・・・・・・・・・・のかな?
いずれにせよ、消防車が案内してくれてる納経所を見たい。まさか消防署が納経所なのかな?絶対にあるはずがないけど、一抹の期待を抱いて歩いていった。赤い建物ならうれしい。だがもちろんそれは普通の茶色の納経所だった。納経をしてもらいながらなんで消防車があるかを聞こうとしたが、愚行であることに気付いてやめた。
あ、愚行といえばもう一つ愚かなことをした。
おれ、お参りしないのに納経してるわ。勢いでやってしまった。これは遍路をスタンプラリー化させてしまうということで、特に注意すべき行為なのだ。(と本に書いてあった)。反省、はんせい・・。今からでも遅くはない、本堂と大師堂に行かないと。
また玉砂利を踏んで歩き出す。

およ?なんか面白そうなものがあるぞ。胎内巡り?入り口がありそこから地下へ下りていく。中は真っ暗だった。壁をさわりながら恐る恐る進む。
               
割とこの胎内めぐりはあちこちのお寺にあるようだ。
さて、時間を食ってしまった。もうおりないと。今日の宿泊地まではかなりの距離があるのだ。
遥か下に土佐の街並みが見える。
しかし、このアスファルトの下り道路は脚に優しくない。正直、一歩踏み出すたびに壊れた脚に

ズキン★
という感触が伝わってくる。
まいったなあ・・。

平地に下りたとき、何気なく振り返った。あそこに今お参りしてきた札所が見える。三脚が壊れてしまったので、ガードレールのくいにカメラを死ぬほど丁寧に乗せて写真を撮る。



この指差した辺りがさっきいた札所


土佐市役所の近くの電器屋に入る。
「すいません、三脚ありませんか。」
「どうもー。ありますよ。これなんかお勧めです。」そういって親切そうなおっちゃんが出してくれたのは、ビデオ用の巨大なもの。
「あ、それビデオ用の大きなやつですよね。僕歩き旅してるんですけど、カメラ用の小さいのが欲しいんです。」
「あー、うちにはないなあ。」
店の中から家族と思しき人たちがでてきた。
「あそこの店はどう?」
「あそこは小さいよ。こっちのほうがいいって。」
客でもない私のために、一生懸命考えてくれた。どうもありがとうございます。


彼らのお勧めの量販店まで歩く。その店にも大きな三脚しかなかった。しょうがない、購入することにする。
「お遍路さん、いつまでされるんですか。」
「あさってまでです。」
「それだったら、この辺までは歩けますね。」
レジの店員さんが、わざわざ地図を見ながら教えてくれた。個人商店ならありがちだが、ここは量販店だ。旅のアドバイスまでしてくれるとは思わなかった。
先ほどの家族といい、今の店員さんといい、優しさがあふれ出している。どこからこの思いがくるのだろう。私が歩き遍路だからだろうか。それとも四国の持つ優しさだろうか。

コンビニのある角を右折する。地図を見ると、あと3.4キロほどで大きなトンネルをくぐり、大橋を渡るようだ。

歩き出したが調子が悪い。三脚をかったため一気に荷物の重量が増えたのだ。汗が噴き出す。脚が痛い。足のマメも大量に発生している。肩も痛い。
ふんぎゃ!またもリュックを放り出して道端に座り込んだ。

はあ・・・・・・・。


しんどいなあ・・・・・。


歩くの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いややなあ・・・・・。


そんな私のそばを自転車に乗った女子高生風の人が通り過ぎていった。
バイクに乗ったおじいさんが通り過ぎていった。
犬を連れた小学生が通り過ぎていった。

一台の車が、通り過ぎていかなかった。


なんと反対車線の車が停まったと思うと
「近くまで行くけどどうですか?」

・・・・・・・・・・・・・・おお・・・・・・・・・・・・・ついに・・・・・・・・・・・・・・・・・
ついに車接待を申し出られてしまったのである。



さて、ここで問題。
私はどうしたでしょうか。



もう一つ、問題。
私は今日大事なことを結局忘れたままである。それはなんでしょうか?
                                            
          

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送