みんな、ありがとう 普段着お遍路走り歩きの記
2003年 冬編 第17回
(33番雪渓寺から34番種間寺をへて土佐市へ)
朝5時半に起きたとき、すごいことに気付いた。
これまで大切なことを忘れていたぞ。旅で一番大切なこと。
もうすぐ旅が終わるのだ。
今日は12月30日。走れる歩けるのは1月1日までなのだ。
そうだった・・・。夏と違って期間が短い。つい先日歩き出したところだから油断していた。
そんなことを考えながら、知らない間にまた寝ていた。
目が覚めたときはすでに6時40分!うわお、やってしまった。札所が目の前にあるから7時ちょうどに行って納経一番乗りをしようと思っていたのだ。このままでは俺の野望が崩れてしまう。
恐るべし、二度寝の快感。
死ぬほど急いで朝食に行く。さあ、食べなきゃ。今日も何十キロも歩くんやし。
おかしい・・食べられない。何口か食べた。とてもおいしい。が、体が嫌がっている。結局ほとんどのこしたまま出発した。どうして食欲がないのだろう。疲れすぎだろうか?
7時23分 33番 巡拝
幅が広く情趣もないアスファルト道路だが、知らない街を歩く喜びがわいてくる。そして知らない街の知らない人たちが、すれ違いながら挨拶をしてくれる。だからうれしかった。旅そのものを喜べた。
だが心のぬくもり以外の全ての条件が悪すぎた。食欲がまったくなく、足が自分の思い通りにならず、そして時間がなかった。それでもとおりすがる人たちは素敵な挨拶をしてくださり、私はそれに無理な笑顔で応えていた。
思わずリュックを放り出した。道の真ん中である。もう耐えられない。脚の全てが痛すぎる。薬箱に痛み止めが入っていた。近くの自販機で野菜ジュースを買って流し込む。自分は何をしているのだろうと言う疑問すらもうわいてこなくなっていた。私のすぐそばを大型ダンプが不愉快な様子で通り過ぎていった。
田舎道を歩き続けた。すこしだけ早く歩けるようになっていた。一服の薬が効いたのか、昇りつつある太陽がそれ以上の活力剤となったのかそれは知らない。私が凹む凹まないにかかわらず今日も朝日がやってきていた。
看板に導かれ左折する。道がぐっと狭くなるが家々に顔を近づけられているようで、この街並みに親しみを感じた。どこからかもち米を炊く匂いがする。私には縁のない存在だ。
だがしばらくいくと、私にとても縁のある匂いがしてきた。線香の香り。
34番霊場 種間寺 12月30日 9時30分
この寺は素晴らしい。段差がない。平地にありのままに建っている。どうして四国の霊場は山の上に多いのだろう。
お参りを済ませてもすぐには動けずに、地べたに座り込んでいると
「35番はね、途中の看板が右折ってあるけど、まっすぐ行きなさいよ。」とおしえてくれた。このアドバイスは後に非常に役立った。
両脇にはかつて緑だったかどうかすらわからない褐色の田んぼが広がっている。その荒地をまだ稲粒がのこっているのだろうか、たくさんの雀たちが群がりながら歌っていた。
10時を過ぎた辺りで空腹感を少しだけ感じてきた。農協前の自販機でコーンスープを買う。流動状のものならどうにかのどを通るようだ。しばらくいくと年末なのにまだ開いている小さなお菓子屋があった。そこでジョアとクリームパンを買う。
この写真を見ても思うのだが実に私はつまらなそうな顔をしている。食事と栄養補給は同じ気もするし違う気もするしどっちでもいい気も、これまたするのだ。
土佐市に近づく頃から、道幅も広くなり河がやってきた。そしてくるおしい空の青さは透明感を持ち来るべき2004年を祝福していた。
道標にしたがって川原に上る。よし、この景色をバックに写真を撮ろう!そうすれば気分も晴れるかもしれない。食欲もわくかもしれない。
・・・・・・・・・・・もういや・・。
鈍い音がして三脚がこわれた。三脚の上部が完全に折れていた。
おいおい・・・。カメラを乗せていなくてよかった。しかしどうしよう?撮影。自分が入った写真は三脚無しではとれない。
しょうがないから、橋げたの上にバランスをとりながらカメラを乗せる。
美しい。何が美しいのかはわかないが、とにかく美しい景色だった。その中を小さなことでうじうじと悩んでいる私がいた。
これは偽りのポーズ。脚の痛みと食欲不振に耐えながらの写真である。
仁淀川、一次多いが大阪にある川の名前に似ているので、なんだか親しみがわいてくる。
橋を渡るといよいよ土佐市である。がこの橋、どっち向きに進めばいいのだろう。シールがない。地図を見たが、それでもわからない(註:私は方向音痴です。それも重症)。
あてずっぽうで歩くと
そこは土佐市であった。
そろそろ昼ごはんだ。昨日まではラーメンを求めて必死で歩いたり(前々回くらいを参照)していたのだが、今となっては何でもよかった。手近な店に入りカツどんを頼んだ。
今この写真を見て、実においしそうだなと思う。だが、このとき、二口ほど食べて店を出てしまった。食べることへの「欲」が完全に消失していた。
朝から口に入れたもの、
ご飯二口、コーンスープ半缶、クリームパン三分の一、そしてカツどん二口。
弱いくせに旅に出てしまった私に悲劇は足早にせまってきていた。
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