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          みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 

                                 2003年夏編  第21回




                        今、私の手元に古い旅の本がある。1962年発行というから

                        40年以上前のものだ。放浪旅についての本である。そこに

                        は筆者が土曜の夕方から会社を脱出し、一泊でどれだけ

                        面白い旅をしたかの体験や、極力安く泊る方法など、現代でも

                        十分楽しめる内容となっている。旅心というのは、いつでも

                        かわらないのだろう。

                        ヒッチハイクのやり方は今とまったく一緒だ。



                        ところが、心は変わらずとも社会は変わっている。少し読んだ

                        だけでも、今は存在しない単語がたくさん出てくる。


                        「国鉄」「駅弁」。さらには「総天然色映画」にはまいった。

                        高級旅館が1500円だそうだ。「木賃宿」とはなんなのか?


                        「旅行術」というこの本、父の本棚から勝手に持ってきて

                        しまった。筆者の滝太郎さんは当時26歳という。今は60代の

                        滝さんは、今でも旅をされているのだろうか?古すぎる本ゆえに

                        どこに問い合わせてもわからないだろう。

                        だが、41年前に発行されたこの本が回りまわって、現代の私の

                        手元にあるというのも実に面白い話ではないか。





                        歩き疲れた私はもと来た道を戻り始めた。もう写真ができる

                        ころだ。さっきの写真屋に向かう。

                        「あー、どうしよう・・、今まで撮ったのがもし全滅していたら・・。」

                        よくない予感は当たりやすい。できるだけ考えないようにするが

                        それでも、やはり。


                        「ああ、さっきの子ね。できてるよ、写真。」おっちゃんが袋から

                        写真を取り出す。合計6本を現像に出した。問題は最後の一本だ。


                        一番札所が写ってる、これちゃう。

                        これか?ちゃう。吉野川の写真はもっと前や。


                        あ、これ・・・・・これや!この焼山寺の写真、まちがいない!

                        うつってる!よかった!一枚だけ何が写ってるか不明の

                        心霊写真があったが(19回参照)、まあ、これくらいは

                        捨て置こう。


                        写真屋さんに十分お礼を言って旅館に戻った。



                                         

                        旅は終わってからもそれを思い出すのが楽しいものだ。

                        帰って、次の日もし仕事がないなら、ゆっくり現像した写真を

                        眺めるのは旅した者の特権である。今回のお遍路でも

                        大量の写真を家に帰って見るのが何より楽しみであった。

                        が、カメラ転倒のハプニングで旅先で写真を現像してしまった。

                        実は、まだほとんど見ていない。100枚ほどの写真のうち

                        カメラ屋で確認したのは数枚だ。残りは、いま、私の目の前に

                        袋に入ってそこにある。・・・・・・・・・・・・あるんだよな・・・。うん。







                        見たい!












                    やはりこれは家に帰るまで見ないのが筋である。

                    楽しみを自分で踏みにじるのはどうか。ね?









                    でも、ここにあるのだ。見るなというのが無理な話ではないか?









                   あほう!我慢しろ!おれ!見るな!








                    よおし、こおなったら・・。日本人的妥協案、


                    一本分だけは見てみよう。

                    まだ5本は残ってるのだ。大丈夫、大丈夫♪
                                               (↑お久しぶりです)









                     お、いいねえ。出発のときのこの笑顔。何にも苦労を予測して

                     ないねんな。ぱらぱら、ほうほう。遍路シールもちゃんと

                     うつってるやん。あーおもしろかった。しかし、1本だけだと

                     すぐ見終わるなあ。




                     つまらん・・。







                     2本見たって、まだ4本あるよね。




                     三分の一なら割とキリもいいしね。

                     もう一本だけ見てもいいことにしよう!


                     おお!雨の様子がよくわかる!そうやん。この時つらかった

                     よな。あ、宿で一緒したWさんとNさんや。お二人とも、いま

                     どの辺かなあ・・? 

                     雨といえば、吉野川や!あの写真が見たいぞ。すごかった

                     もんなあ。どれや?あれ?2本目にあると思ったのに・・。

                     台風の写真は3本目にあるのか。しょうがない。これは

                     見ざるを得ないよな。










                     これは俺の意志が弱くて見るんじゃないぞ。大事な台風の

                     写真が3本目にあるのが悪いんや!

                     さてと、3本目、3本目♪


                     やったあ!うつってる!台風の時の思い出やなあ・・。





                     見終わった・・。しかし、ちゃんと写っててよかったなあ。

                     現像してくれたカメラ屋さんに感謝や。まてよ・・・・・。







                     あのカメラ屋さんが無理して現像してくれたのに、

                     今、見ないのは大変に失礼ではないか?







                          そうだよ、いま、見ないといけないのだ!
   

                      これは俺が見たいからいうんじゃない。そう、あくまで

                      カメラ屋さんのためなのだ!!


                      さてと、ぱらぱら4本目♪

 
                      残るは2本か・・。

                      2本くらいは残しておいたほうが、帰ってからのお楽しみでは

                      ないか?


                      でも、ここまで来たら、一緒やないか?なあ?

                      そうか!家に帰ってもう一回見るとき、初めて見るつもりで

                      鑑賞すればいいのだ!すごい!このアイディア!

                      パラパラ、5本目!次や、次!6本目・・・。




                      ふう・・。全部見ちゃった・・。ああ・・・・、やっぱ







            見るんじゃなかったかな・・・・・・・?



                      考えるの、面倒くさいなあ・・・・・・。今何時?9時半か・・。

                      もう、寝よう・・。それがいい、それがいい・・。おやすみ・・。






                      5時に目が覚めた。遍路中はこの生活リズムが身について

                      いる。

                      窓の外を見た。夜が明けていない・・。

                                  


                       今日は雨が降っていない。四国に来て晴れた朝を

                       迎えるのは、今日が初めてだ。

                       6時前には食事をし、6時半には宿を出た。



                       これから徳島市内へ歩いて戻る。




                       広い道路には誰もいない。しいんと静まり返っている。

                       私はこの旅の朝の雰囲気が何よりも好きだ。普段とは

                       違った静寂な道。澄み切った空気。

                       今までは雨ばかりで澄んだ空気をすえなかった。やっとだ。


                       不意に両脇の街灯の光がいっせいに消えた。いよいよ

                       朝が訪れたのだ。


                       どこからか水の音がする。昨日見た川からだろう。右から

                       ときおり家並みが迫ってはまた遠のく。その度に朝の空が

                       大きさを変えた。




                       この貴重な時間を写真に撮ろう。私は旅の一瞬を

                       切り取るために撮影した。


                             

                       寄井の町外れから道はやがて二つに別れる。どちらを

                       行っても13番につくのだが私は右にむかった。国道438
 
                       号線を行くルートだ。

                       正面に大きな建物が見える。学校だろうか?

                                      


                      私はここで何気なく振り返った。少し離れたところにある

                      家に電気がともった。家人が起床したのだろう。

                      日曜なのにこんな早く起きたということは、これから仕事に

                      行くのかもしれない。私は仕事を休んで、いま、四国にいる。

                      この感覚がうら悲しく、そしてやっぱりうれしかった。私は

                      重い荷物を背負って歩いている。家に帰っても、また別の

                      大きな荷物を背負って歩かなければならない。


                      トレッキングシューズの底から、まだ冷たい地面を感じる。

                      こうして一歩進むたびに、私は荷物をリュックから日常という

                      荷物に持ちかえる瞬間に近づくのだ。

                      




                      道はぐっとひろくなり、薄暗い朝の空が大きく見えた。

                      両脇に家がなくなった。どこまでもまっすぐ続くアスファルト

                      道路。通る車もなく、そのど真ん中を私は歩いた。杖の

                      音だけがあたりに響く。


                      いつまでも朝日が見えない。雲が厚いせいだ。それでも

                      左に見える稜線と空の境がきわだちだした。空がわずかずつ

                      白みだした。もうすぐ太陽が顔を出すだろう。



                      たなびく薄雲は灰白色をしていたが、すこしずつにごりを

                      ほどきだし白く光りだした。いままで鈍い色をしていた空が、

                      まさに空色をとりもどした。


                      そして・・・・・。振り返った私の眼には金色に輝く太陽が

                      みえた。四国にきて初めて見る朝日だ。高低差のある

                      山並みのとある一点から、四国の街並みに美しい光の

                      帯が降り注ぐ瞬間を私はこの目ではっきりと見たのだ。



                      いや・・・、遍路を始めてどころではない。もしかしたら

                      大人になって初めて見る朝日ではないだろうか?

                      数百回も朝日は昇っているのに、私の目にも心にも

                      うつらなかった。

                      今、ここにある自然をいつくしむよりも、その日をどう切り抜けるか

                      だけを考えてすごした、そんな心の死んだ日々。


                      四国の道を歩くことで、今一度、人らしい心を取り戻した気がした

                      瞬間だったのだ。




                     「お遍路にきてよかった。」先人たちがみんな実感したであろう

                     そんな感触を私も太陽の光によって与えられたのだ。
                                          



                      そんな感謝と今の自分の悲しさを反芻しながら私は緩やかな坂道を

                      のぼり続けた。

                                          




                                 

                                                     

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