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                   みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 

                                  2003年夏編 第18回



                    旅人にも二種類あると思う。

                    旅が終わるとすぐに日常の生活に頭も体も切り替えられる人と、そうで

                    はなく、いつまでもその時のことを思いだし、現実に戻れない人がいる。

                    私は断然後者である。


                    旅から帰ってくると、そのときの記憶を消すのが惜しくて、何かと行った

                    先々の土地にちなんだ食べ物に、やたらこだわってしまう。

                    北海道から帰ってきたときは、丼屋ではイクラ丼ばかり頼んでいた。

                    そして「やっぱ北海道で食ったイクラ丼の方がうまかったで」と友人に

                    いちいち自慢をしては、広大な大地の余韻に浸っていた。

                    屋久島で覚えた焼酎のおいしさが忘れられず、居酒屋ではビールでは

                    なく焼酎ばかり頼むのは、もう癖になっている。その結果として、飲むと

                    必ず屋久島の話をするので、みんなもう私の話を暗記してしまっている。



                    さて、今回の四国はどうなのだろう?高知といえばかつおなのだが、

                    そうそう毎日かつおばかりも食べていられない。第一、家で一人で食べ

                    ても、旅を自慢する相手がいない。徳島といって私はすだちを思い出す

                    のだが、これもしょっちゅう食べるものではないだろう。第一、すだちって

                    売っているのを見たことがない。

                    しょうがないので食べ物ではなく、あぜ道でたくさん見かけたコスモスを

                    ベランダに植えたのだが、これも気温が低くなるにしたがって枯れてきて

                    いる。


                    したがって、いま私は何を頼りにして遍路の余韻に浸っていいのか

                    わからず、毎日を仕事にげろを吐きそうになりながらすごしている。

                    今日の飲み会ではまた焼酎を頼むぞとかいった楽しみもなく、

                    仕事に、したくもない集中をしながら生きている。

                    どなたか、私の仕事の邪魔をする特産品をおしえてくださいと、

                    この場を使って申し上げておく。




                    さすがに、良心がとがめたため、人心地ついた私はお参りを済ませ、

                    納経をした。そして昼食の時間だ。

                    今まででももっとも長い時間をかけて、お接待のおにぎりをいただいた。

                    朝、凍らせてあったという缶のウーロン茶はリュックの中でお湯のように

                    なっていた。一片食ではあったが、難所を乗り切った心身を優雅にさせて

                    くれた。


                    だが、まだ体の芯のほうが乾いてる感じがする。自販機でミニコーラと
 
                    お茶のペットボトルを買った。こんなことをしていたら金がどんどん減って

                    いく。ポカリスウェットの粉末を使ってもいいのだが、ぬるいポカリは、

                    あまり心身に染み渡らないことをこの旅で覚えてしまった。



                    ずいぶん長い間この寺にいた。もう出発せねば。今日はこの札所一箇所だ。

                    次の宿を目指すのだ。本来なら野宿をしたいところだが、昨日までの

                    台風で地面のコンディションが非常に悪い。



                    私は階段を下りながらもう一度寺を見上げた。さようなら、夢にまで見た

                    (見なかったけど、その時はそんな気分だったのだ)焼山寺よ・・・。


                                           




                    うわ!これ何!?


                    すごい光景だ。来しなにはわからなかったのだが、一本の

                    巨木が倒れている。普通に倒れたらいいのに、嫌がらせのように

                    いかにもできたて、といった白く光っている木造建築の建物の屋根

                    を直撃していた。側には工事関係者と、お寺の人と思われる

                    おっちゃんたちがたくさんいた。みんな、深刻な顔をして、倒木の撤去

                    作業をみつめている。




                    そうか・・・・・・・・・・・・。


                    道中に出会った若い僧侶たちの無愛想の原因はこれだったのだ。

                    おそらくは古参の僧侶はこちらに手を取られ、若手はみな、それ以外の

                    境内の整備にまわされていたのだろう。信仰心のある方たちば
          
                    かりだろうから、ずっと建物のことが気になっていたに違いない。自分の

                    苦労をかみ締めながらさわやかにゴールインした若造の笑顔は

                    普段は祝福しても今日だけは不愉快にその心に映ったかもしれないのだ。




                    実に急な下り坂だった。お寺には続々と人がやってきていたのだが、

                    この道には誰もいない。「みんな車なのだ、いいなあ・・。」疲れたと

                    きにはコピーしたみたいに同じ語句が浮かぶ。今日もやっぱり浮かんだ。

                          

                    アスファルトの下り坂を歩き続ける。このときまで、私は上りが大嫌

                    いで下りを愛していた。子どものころからそういう癖はあった。だが、

                    今日を境に変わってしまった。


                    「やっぱり、すこし右ひざが痛むな・・・。」嫌な感覚がよみがえってきた。

                    のぼりには感じていなかった鈍痛。じわじわ、よみがえってきたぞ。

                                    ズキズキ・・・・・・。


                    ちょっとだけ痛んでるな、あくまでちょっとだけ・・。さあ、がんばろー。

                                  ズキズキ・・・・・・。

                    ちょっとだけ、かな?なんかさっきより痛みが見る見る増してきたぞ。

                    これははっきりいってすごく痛いぞ・・。でも行かなきゃ・・。



                                    ズキン! 


                     
ゴキン!




                    
 ガッキ〜ン!!!
                                                           
 

                     うわ!(2度目のうわ!)マジ!きました!


                     今までとは全然違う!

                     脳髄まで響く痛みだ!

                     思わずリュックを投げ出して、座りこんだ。


                     おそらくは6時間の山登りで負担がかかり、それが下りになった今、

                     一気に爆発したのだろう。下りこそ膝に負担がくることを忘れていた。

                     さっきののぼりは嫌いで下りは得意だというのは撤回!どっちも

                     許すか!


                     でも、こんな山道ではどうしようもない。なんとか、工夫しなきゃ。



                     アイディアその1 半歩ずつ進んでみた

                      だめ!時間がかかりすぎるし、じれったい。
                             そうか、この手がある。                                                                                 
                                             ↓
                   アイディアその2 後ろ向きに進む

                      あっか〜ん!足の痛みはないが、リュックに引きずられてこけそうに
                      なる。



                    馬鹿みたいなことを書いてるが、本当にこの時、後ろ向きに歩いたり

                    半歩ずつ歩んだりしていたのだ。十日ほどの歩き遍路で一番惨めだっ

                    たのは、台風でも難所上りでも酷道55号線でもなく、この後ろ向きに

                    歩いていた瞬間である。


                    この過程で誰ともすれ違わず、通る車もなかった。傍から見ていたら

                    チビのくせに巨大なリュックを背負った普段着のお遍路さんが後ろ向きに

                    歩く光景はどう映ったろう?




                    途中いくつも山道を直滑降するショートカット道が遍路道として案内され

                    ていた。アスファルトが嫌いな私は、普段なら喜んで行くところだが、この

                    時ばかりは、ずっと国道を歩いた。遠回りだが、このコンディションでは

                    ぬかるんだ山道を行けば怪我をするだろう。


                    それでもだ。道ばたの渓流。実に心地よい。これまでの人生で何度も

                    川は見ているが四国の川には特に魅了される。どうしてだろう?


                                               



                     おや?誰もいないと思った道に人がいる。12番札所をでて初めて

                     出会う人だ。お互い通じ合うものがあったのか、同時に挨拶をした。

                     ほんの一瞬だったが、その人の笑顔が忘れられず今でも記憶に残っ

                     ている。彼は義足だったが、それが印象に残ったのではない。笑顔

                     が遍路道に実に似つかわしかったのだ。


                     愛想のないアスファルト道はゆっくりと左に曲がっていく。今まで

                     視界をさえぎっていたみかん畑は姿を消した。


                     うわ!(3度目〜。)俺は、あそこから歩いてきたんや!開けた

                     視界の先には対岸の山並みが見えていた。そして、その中腹には

                     上り坂の途中に急に姿を現した不思議な街並みが見えていた。

                     下の写真にも小さく見えている。私はあの山を越えたのだ。

                                


                     そうだ!このすばらしい風景を前に写真を撮ろう!実は、この

                     ポーズの写真をとってみたかったのだ。カメラを三脚にセッティ

                     ングしてポーズをとり、セルフタイマーを押す。


                     じ〜!カメラが鳴き出す。あと5秒、4、3、2、・・・・・・・・・







                     うわ!(4度目!今までで一番ショック)









                    突然カメラが傾きだしたかと思うと、そのままアスファルト道路に









                          がっしゃ〜ん!










                     と倒れこんだのだ。あわててかけよる。左側に無残な傷がついている。

                     やばい。中のフィルムが感光したりしていないだろうか?それより

                     もう明日以降の写真は撮れないのだろうか?



                     このときは本当に凹んだ。あの難所越えの写真がこのカメラの中に

                     入っているのだ。それがすべてパーだとしたら・・?よく見るとわずか

                     にボディのつなぎ目に隙間も開いている。ここから光が入っていたら

                     今までの記録はお陀仏だ。





                     結論から言うと、カメラは無事であり、中のフィルムも異常なかった。

                     が、これは現像したからわかったのであり、その時はかなりテンションが

                     下がっていた。それでも、一応は狙った写真を撮影した。



                                         
                                      カメラのことが気になってブルー入ってひきつっている顔の写真
                                      旅の最中なのに全然さわやかでない


                   一度やってみたかったのだ。きれいな景色をバックに、道端に寝転がって

                   さわやかな笑顔で写真を撮るというのを。笑顔はこのときなかったが、

                   片方の願いは一応かなった。



                   さあてと、カメラも壊れたことだしいきましょーかね。とかなり自暴自棄な

                   気持ちになって歩き出す。


                   すたすた・・・・・・。



                   すたすた・・・・・・(ほとんど無表情)・・。



                   すたすた、す・・・・・・・!?
 
                  うわ!(5度目!!!!今日の俺はいい加減アホである)。

                   今度はいったい私は何に気づいたのだろうか?答えは、また次回。





                   でもって、もう一つ問題、この写真はいったいなんでしょう?

                                    
                                                ほとんど心霊写真であるが、実は・・。


                                    こたえは、これ!↓

                    カメラが倒れた瞬間にシャッターが押されたアスファルトのアップ。

              これではたしかに心霊写真である。




                                                                 



            

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