第11回 心のぬくもる場所




また一日が終ろうとしている。
つい先日までの私はとにかく夜が来てほしい生活をしていた。
でも今は夜が怖いのだ。


24時間すべてが

自分のものであるという感触。

こんなに心地よい一日が終わるのが

もったいないのだ。


旅を何のためにするのかという問いの答えはここにある。



でもやっぱり終ってしまった。

そしてユースでは。




部屋に入ると荷物があった。ヘルメットからライダーのようだ。ふと昨日の不安がよぎる。
どうもチャリダーというだけで変な言われ方をすることがあったから、
エンジンつきの乗り物とそれを乗る人への畏怖感がつよくなっているのが自分でもわかった。


とはいえ、昨日のおっちゃん軍団でないだけで数百倍よいのだ。
あれより悪くことはあるまい。

いつの間にか寝てしまった。無理もないのだ。早朝から起こされたからね。
そして目が覚めた。

あ~、もったいない。旅中の昼寝は嫌いなのだ。一日が短くなるから。

そして目が覚めたとき一人の旅人がいた。さっきの荷物の持ち主のようだ。
「こんにちは。起こしてすいません。」
おお・・・・・、なんかやさしい言葉。昨日は早朝にたたき起こされたのに。

「ライダーですか?」
「そうです。もしかしておもてにとまっていたチャリの方ですか?」
「そうです。チャリで北海道を走ろうと思って。」
「すごいですね。バイクでも大変なときあるのにチャリで旅するのってすごいことですよ。」


え?

すごい・・・?
昨日は環境破壊とか何とか言われてたのに、なんかえらい違いだ。

このライダーは関東にお住まいのOさんだった。
友人と待ち合わせているという。
その仲間のライダーは関西のMさんとおっしゃる。
家が近いため実に話しやすかった。



お二人ともライダーで、なにより北海道を愛し、旅を愛しておられた。

お二人とははじめてお会いしたのに、
もうこうして一緒に食事をし、

気づけば屈斜路湖畔のもう一つの温泉、コタン温泉へバイクとチャリで連れ立ってでかけていた。


            


ここは昼間の沼とは違い、それなりに清掃されていた。

初めて会ったお二人とこの夕景を眺めながら、北海道を旅を語り続けた。

     
昨日ほどの美しさはないけど、今日の俺にとっては最上の光景なのだ。


実は昨日から完全に疲れていた。
一体何しに北海道まで来たのだろうという思いが生まれていたのだ。
心が傷つくと弱気になる。


OさんもMさんも決して僕を慰めるつもりはなかったのだろうけど、
お互いの旅を尊重しあうことで、旅人の心は励まされるのだ。
24時間の中でお会いしたのはその6分の1ほどだが、私を立て直すのに十分であった。


僕もこの先の24時間の積み重ねの中で、誰かを励ましたい。
そのために、また旅を続けるのだ。


日付が変わる直前にまた3人で外へ出た。
星が輝いていたが、なんだか知らないけどバカをやって楽しんだ。



このなんともいえない写真を心に焼き付け、静かに3人とも就寝。




すればいいのだが、ユースに帰ってからもまた話は尽きなかった。

「このホール、声が響きますよね。

小さい声でしゃべりましょうよ。」Mさんが言った。



いちいち昨日のおっちゃんらと比べるべくもないのだ。
いや、比べることすらもうすまいと思った。

お二人には北海道の見所を教えてもらった。


あれから一年半、教えてもらった見所はほとんど忘れた。
でも、互いの旅を尊重しあった心のぬくもりは今も新しいのだ。


そして静かに部屋に戻り、そうっと寝た。


すぐに次の日の別れはやってきた。
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