俺の頭上で輝け!南十字星 

日本最南端への道





   第5回 大自然の小さな男  

西表を流れる川は静かである。

間近にある森からは野鳥の声が響き、遠くから潮の声が響いてくるのに、
私の周りはしいんとした静けさにつつまれていた。
音がたくさん聞こえるのに静かに感じるのは、その一つひとつが人間にとって優しいからだろう。
電車の中で聞こえる携帯のバイブ音すらうるさいのも同じ理由な気がする。

その静けさに包まれた川の中に私は入った。
ゆっくりとオールを水に入れる。と、すうっと宙に浮いた感覚がした。
生まれてはじめて乗ったカヌーは水面を滑り始めた。
    
私はオールをこぎ続ける。

なんて心地よいのだろう。
カヌーは、実にすいすいと進み始めた。


とおもったら・・・・・、

へ?

なんで同じところを回るんや?

ちゃんと左右交互にこいでるのに、なぜか同じところを回る、回る、気持ち悪い・・・。


「兄ちゃん、危ないからそんな同じところをふざけて回ったらだめだよ。教えたとおりにちゃんと普通に進んで。」
インストラクターがあわてて言った。
あのう、ボク、普通に漕いでるつもりなんですけど。


それ、すすめ、まっすぐすすめ!

ぐい〜ん、カヌーは勢いよく右に曲がった。





すいません、俺、カヌー君に嫌われたみたいっす。




西表でもめったに見られないジグザグに進むカヌーは、

やさしくない音を立てながら動き続けた。


すぐ近くでは中学生くらいの男の子が実に軽妙に直進している。

遠くにまっすぐ飛ぶ鳥がいた。



とはいえ、この水面を進むという状態、実に心地よい。
独特の浮揚感覚があるのだ。


がしゅ!がしゅ!

なおも漕ぎ続けた。

横のジャングルには、たぶんここを訪れた現代人誰もがみんな連想したであろうディズニーランドのアトラクションと同じ音と景色が広がっていた。
でもこれは人工のアトラクションではない。
人が生まれる前から流れているこの川とこの土と空気が生み出した自然なのだ。

そう、大自然。

大阪にいると「自然」や「緑」を見ることはあっても、「自然」はさすがに感じられなかった。

自然の中をじつに刻みに動く俺はたぶんこの地に生きるもののなかでもっとも矮なのだろう。

そんな俺の前をトンボが番でまっすぐ飛んでいた。
お前ら、いやみか〜。






船着場に着いた。
ここからジャングルの中を進む。
カヌーを降りた私は汗びっしょりだった。
「いやあ、カヌーって体力を使いますね。」
「んなことないよ。兄ちゃんがあんな風にジグザグにしたから、普通の人の倍は進んでることになってるんだがね。」




本土では絶対に見られないこの原生林。
その中を進む。

全部知らない樹木ばかり。
特にこれは知らない。

帰宅後に何度も本で見たこの形状。
でもどうしても名前を覚えられなかった。
この不思議な形にもなにか意味があるのだろう、大自然の。



道はどんどん上る。
俺の体はくたびれる。
ジグザグに進んだからだ。

でも道はまっすぐのルートを作り、のぼらせ続け、あえぎ続け
そしてここへ出た。


      

おおおおおおおお!!!!!


見渡す限りのジャングル!




その超大自然は、これまでみたどの緑よりも濃く、強く、そしてなんというか妥協がなかった。
もう、遠慮なくこれでもかというくらいに「大自然」だったのだ。


すごいのはこれだけではなく、足元の川が

流れていき、



流れていき・・・・・、


その先は・・・・・!




遠く旅してきた水が、ここで底知れぬ緑の中に舞い落ちていくのだ。
まっすぐ、一直線に。

で、先はどうなるのかと写真を撮ってきたが、常識ある普通の人はここで終わる。



が、矮小な人はこうした。





滝のそのまた向こうの写真。
三脚をいっぱいに伸ばし、体を乗り出して撮ってみたのだ。
ちゃんと滝つぼが写ってるでしょ?


いや〜ん、あそこにいるおにさんのやってるの、みてるだけで怖い。」
後ろでおカップルが言っている。


いえいえ、これではすみませんよ。










    

      我ながら、こわ!




いやああああん、あの人、絶対危ない〜。」
またおカップルがいった。




そんな私の前を一匹の蝶が飛んでいる。
蝶か・・・。


蝶?

12月に蝶をはじめてみた。
あの蝶のみはまっすぐとんでいなかった。私はいっぺんにその上下にゆれながら飛ぶ黄色の小さな蝶が好きになった。


そんな俺の大冒険は、まだ昼過ぎ!

つづくじゃないか〜!
いやあああん、うれしい〜。
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