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 自由と決別するとき 僕らの最後の冒険

  地図を持たずに適当に、どこまでも、いつまでも・・・


                    
 多分前編(あるいは第1回)

車は見知らぬ道を走っている。ここはどこだろう。
看板の地名を見えてもまったく知らない土地だ。
「ここ、どこやねん。」
いい年をして私たちは自分たちが迷子になったことを確信した。
もうすぐ日が暮れる。

怖い。
でも、心のどこかで不思議な喜びが生まれたのを感じた。
「なあ、このまま迷子になろうや。」私は車中の二人に向かって言った。
「迷子になろうって、もうとっくに迷ってるやん。」
「ううん。もっと本格的に迷ってしまって、家に帰るのやめようよ。」
「へ?」

この言葉が、全ての始まりだった。
それは素敵な大冒険なのか、それとも夢あふれる放浪なのか、
あるいは悲惨な迷い道紀行なのか、
それは・・・、この時の私たちにも分からなかった。



数時間前・・。
何気なく走り出した。洋一(仮名、または本名)は車を買ったばかりだった。当然、周囲の人間をドライブに誘う。
一樹(これも仮名または本名)と私、そして洋一の3人は地図も持たず、考える心ももたず、ただ車でどこかへでかけられるという喜びだけをもって出発した。



普段遊んでいる「地元の街」は、
      すぐに「隣の街」へと変化する。
そして気付けば「知らない街」へと変わる。
その時、冒険が始まる。



知らない街をゆくことが旅の何よりの喜びだ。そんな街の移り変わりが大好きだった。
だからいくらでも前へ前へと進んだ。
いつしか道は連続した九十九折となり、眼下には日常でよく見てはいるけど、旅先ではなぜか写真を撮りたくなる光景が広がっていた。

        
出発して3時間が経過していた。
「ええなあ。こんな風景。」
「ほんまやなあ。でもそろそろ帰ろうや。」
私たちは家路についた。
そして3時間を費やして訪れた場所だから、3時間をかければ帰られるはずだった。
遥か下のほうから水の音がする。清流だろう。ここからは見えないけど、泥流と清流は音も違う気がする。




2時間ほどがたった。
なぜかまだ山の中にいる。
おかしい。
私たちの「地元の街」にこんな山はない。
迷ったか・・。
でもまだ大丈夫。太陽はあと少しは地上を照らしてくれるはずだ。
だから私たちは元気だった。
     

「あのさ、ほんまに暗くなる前に地元に帰ろうや。」
「たしかに。俺、ちょっと怖くなってきた。それに・・。」
「それに?」





「あの看板、気になる。すっげえ怖いよ。」
   


      ↓










      
       熊出没注意      


確かに・・・。


地元では絶対に見られない看板だ。
この不安をあおる看板のすぐそばを、泥流が不気味な音を立てていた。清流ではなかった。



さらに1時間が経過。



まだ山道を走り回っていた。
目印がない。


時々見かける地名をあらわす看板だってこんな感じなのだ。


   知らない地名←  →知らない地名
これでは進みようがない。



日が傾きだした。このときも、そして今もずっと私は放浪好きだが、夜の闇には無条件に恐怖を感じる。
そしてそんな私の不安を感じたのだろうか、車中の二人も次第に言葉少なくなってくる。
ただ、カーステだけがデリカシーなく、騒がしい音楽を鳴らしていた。誰もスイッチを切ろうとはしない。普段聴いている音楽だけが、唯一地元と私たちを結びつける存在と化している気がした。

そして、私たちの予定は狂ったが、地球は予定通り夜を間近にやってこさせていた。




「あかんなあ、ここどこやねん。」これ以上、遅くなるわけにはいかない。真夏ではあるが7時を過ぎると、さすがに暗くて危険である。
それでも冒頭の会話にもあるように「迷子」を楽しむ雰囲気も、ほんのわずかだが、あった。

「どうする?」
「わからへん。」
「日本にも、こんな山深いところがあってんな。」
「どこかに山里は見えへんか?」
「さっきまでは見えてた気もするけど、もう真っ暗や・・。」
「こうなったら・・・。」
「こうなったら?どうするん?」
「泊ろう。」
「どこに?宿なんかないで。」
「ここに。」
「へ?」
「これ以上はうろうろしたら危ない。街灯もないし。朝が来てからまた地元に向かって走り出そうや。」
この提案をしたのは運転手の洋一である。彼は口にこそしなかったが、相当疲れているようだ。
でも、他の二人も即同意した。「おもろそうやな。」
しかし、食料も何もないこんなところでどうしようというのだろうか。


洋一は車を少し広いところに移動させるとエンジンを切った。ライトが消えると闇が訪れた。真っ暗だ。何も見えない。



どうなるんかな?俺たち。

でも・・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・・・・・・・・
迷子も面白そうやん。
迷子になることから俺らの冒険が始まる気がしていた。     

                        
       

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