その島は滅びず 無人島浪漫紀行 第12回
それほど遅い時間ではないのに、漆黒の帳がこの島だけは深夜だと主張していた。陸地から遠く離れた孤島に闇が押し寄せてくるこの感覚は、真に恐怖を人に覚えさせる。一切の街灯やヘッドライトがない。
街中に住む私にとっては、
時が来れば暗くなるという当たり前の事象が、
おぞましい災厄のように感じられてならなかった。
それでも・・・・・・・・・・私はテントを抜け出した。
辺りのテントからは誰かの寝息が聞こえてくる。誰も起きてはいまい。当たり前だが。
あれから数年が立っているため、どのあたりだったかはどうしても思い出せない。
渡航前に単独行動はしないようにと言われていた。だからすこしだけ、ほんの少しだけ離れたところに行った。
ポケットに入れていた小さな100円の予備ライトを取り出した。真の闇が少しだけ和らいだ。だが、それは安心感ではなくむしろ心を不安定にさせた。日常とは違う倒壊しかけた建物が見えるからだ。
なぜこんな行動をとったのかは、今でも分からない。このときも分かってはいなかった。ただ、今を逃すともう永久にこの島へは来られない。だから私は歩いた。
ここはどこだろう。
どこでもいい。
わたしは・・・・・・、
ゆっくりと寝転んだ。
その無機質な建物の上に。
背中に感じるのは冷たいコンクリートの存在。その下には巨大な灰色の古い古い塊があるのだ。
いつの間にか雲が少なくなったようだ。切れ目から星が見える。見える範囲は狭いのだが、その限られた視界の中に無数の星の光があった。
私はいま、
小さな無人島の中の、
巨大な瓦礫の上に、
深夜、
寝ころがっている、
一人。
星をみながら。
そう思うと、日常では得られない真の寂寥感と満足感で心が満たされた。
冷たい空気に包まれてはいたが、これもどうでもよかった。
都会では得られない、そしてもう二度と得られない不思議な思いを決して忘れまい。だから私は全身全霊の感覚を島にゆだねていた。
最後に私はカメラを取り出し、一切の光を使わずスローシャッターで撮影した。切り取られた夜の光景は一瞬であり、写真の中では永久である。
素人の悲しさだ。現像されてきた写真は実に平凡であり、あの時の私の感動を伝えてはくれなかった。それでもとりあえず、公開しておく。
私はテントに戻った。おやすみなさい、本当に。
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