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失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録

 
     
その島は滅びず 無人島浪漫紀行編


私は何とかその塀をよじ登ろうとした。だが力が足りない。
ついでに背もまったく足りない。この塀を登れば屋上へいける!
あそこには何があるんだろう?

汗が噴き出してきた。


「早く!人が来る!」
先に屋上にたどり着いた友人二人が私のほうを見て小声で叫んだ。

「分かってるって、でもとどかへん!」
「あほう、お前は何でそんなにチビやねん!」
「あほか!好きで小さいんちゃうわ!それにもっとこれから伸びるわ!」
「無理無理!飯くわへんやろ?」

まてよ?こんな議論をしている場合ではない。二人の言うとおりだ。早くのぼらないと!



でもどうしてもダメだった。
あと5センチほど手が成長すれば屋上に届くのだ!
しかしもちろん腕は伸びてはくれなかった。

「あかんなあ・・・。俺らだけで行くで。」
「・・・・・・・・・うん。そうして。」

私はあきらめて塀から飛び降りた。
二人は嬉々としてその建物の屋上を探検するためにどこかへ行ってしまった。
一人残された私は音楽の時間に習った歌を歌い始めた。「ぼくらの世界」だった。
友だちと一緒に旅立とうといった内容の歌詞だった。




それにしても遅いなあ・・。もう20分もたってる。
一緒に探検していればすぐなんだろうけど、一人のときの20分は長い。


「もう帰ろう」そう思ったとき上から二人が飛び降りてきた。

「お待たせ!めっちゃ面白かったで。何でかしらんけど上にはすっげえ池もあったし虫もいっぱい泳いでた。」

・・・・・?・・・・・。廃墟の屋上に池ねえ・・。それに虫・・?
それってただの水溜りとボウフラちゃうんか?まあええわ・・。




「ええなあ・・俺も上にあがって探検したかった。中学になったらもっと背も伸びるやろ。その時にもう一回行こうな。」
「おう、行こうや。なあ、その時までにはもっとピースケも大きくなっときや。」
こんな会話をして私たちは別れた。明日は月曜や。宿題をせんと・・。
小学校6年生の私たちにとっては、これが大冒険だった。
崩れかけた家が近所にあり、ある日曜日に意を決して中に入ってみたのだ。






中学に入ってからはそれぞれの世界も広がり、いつしか探検もしなくなった。
だが、受験生に昇格する直前の春休み、ふと思い出し行ってみようということになった。
場所は忘れていなかった。




「マジ、久しぶりやなあ。」
「でも、見つかったら怒られへんか?もう子どもちゃうしなあ。来週は中三やで。」
「いけるいける!小学生のふりしようや。」
「あほう!ヒゲの生えた小学生がおるか!お前はいけるかも知れんけど。声変わりせえへんなあ、お前。」

そういいながらも、その廃屋のある場所にたどり着いた。



そこには、きれいな家が建っており、カーテンのかかった窓の中から、なんと言う曲だろう?
ピアノの音が聞こえてきた。「ぼくらの世界」でないことだけは確かだった。


帰り道私一人が無口だった。二人はまだいい。
僕はあの屋上をもう見ることはできないのだ。
ずっと、これからも。
「あのなあ、そんなことで落ち込むなって。また、すげえ廃墟見つけて探検しようや。」
「ほんまに?」
「今は無理かも知れへんけど。高校に通ったらまた、な。」
「うん。」

よく考えれば高校生になってまで探検をしたがるとは思えない。
だが、そのときの私は本気だった。友人の本音はどうだか知らない。私を励ますための気休めだったのだろうか?
それとも本当に彼らも冒険をしたがっていたのだろうか?私は後者が正しいと思いたい。
実は違うだろうが。



しかし、それ以後彼らとは高校も別々となり、冒険の誘いもかからぬまま、いつしか会わなくなってしまった。
そして私以外の全員が引っ越してしまったようで、友人の一人の住む家が今は廃屋となっている。




私は真っ暗な天井を見上げた。いま自宅を遠く離れた宿に泊っている。
興奮からどうしても寝付かれず、昔のことを思い出してしまった。だが無関係な思い出ではない。
明日、まさに上陸する無人島はあの時の想念につながっている。
それにしても懐かしいやつらを思い出したものだ。みんな、どうしてるんやろう?
会いたいなあ。声変わりした俺の声、聞かせてやりたい。



気づくと朝になっていた。3時間ほどしかねていない。
やっぱりだるいなあ・・。

鏡を見た。
疲れきっているはずの私の目が光っている。
仕事に疲れた自分の眼に光を見たのは少年時代以来のような気がする。



港に着いた。同行者が次々とその舟に乗り込む。みんなでお金を出しあって舟をチャータしたのだ。

陸がどんどん離れていく。

         
小さな舟だったのでみんなが甲板で海を見つめていた。
私は一番前に立って、まだ見えないはずの無人島の影を探した。どれもがめざす島に見えてしまう。


                                                          
「あれですよ。」
傍らにいた引率者の方が指をさしたその先に見えたもの・・。
「あれか・・・・・!」
心臓がドキドキ言い出した。騒がしいエンジンの音がしていてもはっきり聴こえる。

ついに私はその島へ来たのだ。

   
   次の回へは写真をクリック。このお話は以下すべて同じ。

                                       

    無人島浪漫紀行 目次

                    
                                                
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