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限界のそのまた先へ 紀伊半島迷いの一周 9



旅先で闇が迫ってくるというのは、ある意味恐怖ではあるが、こんなときこそ逆に自分の強さ(あるいは弱さ)を実感する機会でもあった。

今、私たちのいるところから海は見えないが、それでも、岩に砕けちる潮鳴りが響いてくる。



道は暗く通る車もない。



街灯や家の光もなく、ただ弱々しいバイクのライトのみが照らす、ごく狭い範囲の道をじっと見つめながら、ひたすら前へ進む。
今何時だろう?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・時計を見る気すら起こらなかった。

こんなさびしい道を走ることなど日常ではほとんどない。だが、今はさびしさと同時に不思議と落ち着いた気分であった。
今、孤独であること、非日常であることが、心地よい感覚を伴って私たちを包んでいた。





走れど走れど景色は変わらない。変化があるとすればわずかながらに、海が見えたり見えなくなったりするその違いだけだ。二人は目を皿のようにしてキャンプ場を探した。



十分ほどしてあることに気づいた。この場所だけやけに路駐が多い。車だけではなくバイクも大量に停まっている。そしてその左側の真っ黒な空間に、そう、何もなく暗く闇の中に沈みこんでる空間にいくつものテントがあった。


みつけた!



あまりにも何もない場所なのでキャンプ場とは思わなかったのだ。いや、むしろ急ぐあまりにさっきは見落としていたのかもしれない。


いずれにせよ、






本州最南端の地に到着!



二人は安堵し荷物をすべて降ろした。中から明かりが漏れているテントもあるが、ほとんどは寝静まっていた。ここで初めて時計を見た。
9時を少し回っている。旅の過程としては大変に遅い時間だ。いろいろと迷っているうちに、こんな夜半になってしまったのだ。


しかし、暗くてもその規模はうかがい知れる。なんという広大さ。これで無料とはすばらしい。

が、感慨に浸っている場合ではない。早くテントを設営し、その中に寝転びたかった。芝生の上に荷物を投げ出し、ホームセンターでなんと6000円で買ったテントをはりはじめた・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、なぜだろう・・?

立ち上がってテントを張っていたのだが、私は急にめまいがしてその場にしりもちをついてしまった。



「どうしたん?」
「わからへん、急に力が入らなくなった。」
「お前、まさか得意の貧血様でもおこしたんちゃうやろな?」
「ちゃうわ!鼻血様の分際で何をいうか。」次元の低い議論になりそうなのでここでやめておいた。
とはいうものの、冗談抜きでまったく力が入らない。
理由は明白である。
旅に出て気をつけなければいけないこととして「ハンガーノック」を聞いたことがある。食事を取らずに動き続けていると急にガス欠状態になってしまうのだ。今の私はまさにその状態だった。洒落にならない。



そのとき、
「どうしたの?」
背後から女性の声がした。振り返ると、やっぱり女性だった。
しかも、これは、また二十歳前後の非常にちょうどよろしい年齢の方であった。


「は、はあ、ちょっと気分が悪くて・・。貧血だと思うんですが。」空腹などとは格好悪くて言えたものでもない。まだ貧血のほうが素敵だと思う。

Dが何か言おうとしたが、その前に女性がしゃべりだした。
「そう、でも今から設営?一人では無理だから手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。こいつ(もちろんDのことだ)は一人でテントを張るのすきなので。

「じゃあ、がんばってね。貧血のときは栄養取らないとダメよ。」
彼女はそういうともっていた袋から2本のバナナを取り出して私にくれた。
「やった、食料や!」という叫び声をあげそうなのをこらえ、丁寧に礼を言って別れた。







いつまでもその後姿を見送っていた・・・・。うつくしい・・。




「お前、何もらってんねん。それ、くれ!」
「いやじゃ、これは俺への愛やぞ、彼女からの。」
「しかも、なんやねん、なにが、こいつは一人でテントはるのがすき、やねん。そんな趣味あるか。バナナは二本あるやろ。一本は絶対俺への愛や。」
「いや、彼女は俺のほうしかみていなかった。これは確信やね。」
とはいうものの、この空腹は尋常ではない。しょうがない、やるとするか・・・。

ごめんね、菜々子(←想像した名前)。

二人は芝生に腰を下ろすと、一本ずつバナナを食べた。実は、この旅の中でもっとも鮮烈に心に残っているのは、菜々子さんのくれたバナナなのである。
那智の滝も谷瀬のつり橋も、そして瀞峡も(←みなさん、わすれてたでしょ?)もすばらしかった。だが、紀伊半島という言葉を聴くたびに、今でもおもいだすのは黄色のバナナなのである。


一本のバナナ様は私たちに山盛りのご飯以上のパワーを与えた。さっきの倍以上の力強さでテントをはりその中に転げ込んだ。

背中に当たる芝生の感触が実に気持ちよい。布団よりもずっとだ。


「もう寝ようか?」
「うん、腹もいっぱいになったし・・。」
懐中電灯の光を消した・・。
真の闇が訪れると思ったが、昼間雨を降らせた雲はどこかにいったようで、月明かりがフライシートを通してやわらかい光となってテントの中にはいってくる。

今日は実にすばらしい日だった。道に迷ったけどでも、おもしろかった・・・。

おやすみなさい・・・・・・。






おやすみなさい・・・・・・。








おやすみ・・・・・・・・・・。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寝るぞ!








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねられへん!












腹減った!

この空腹感は限界じゃ。






しょせん一本のバナナでは無理だったのだ。Dはどうなのだろう?
みるともう寝息を立てている・・。くそ!幸せなやつだ。しょうがない。話し相手もいないし、やっぱり寝るとするか。

今度こそ・・・・・お休み。菜々子・・・・・・。




最後の挨拶が聞いたのか、とうてい眠れないと思っていたのにいつの間にか眠っていた。

波が砕け散る音がだんだん遠くなる・・・・・・・。




目が覚めたとき、一瞬どこにいるのだろうと思った。やはり疲れていたのだろう。9時過ぎには寝たため、かなり早い時間に起きてしまったようだ。普段家にいるときなら、朝日をうらみながら布団からはい出るのに、今日はまだ日が昇っていない時間にきっかり目が覚めた。時計を見るとまだ5時過ぎであった。


私はゆっくりとテントから出た。




どこまでも緑の芝生が広がっている。早い時間のせいか誰もおきてきていない。

この広い場所にいま、おきて動いているのは私だけだ。
この感覚が胸いっぱいに広がった。新しい一日を迎える素敵な瞬間は人とは分かち合わず、一人で味わいたい。


上空を仰ぐと、もうすぐ朝日がやってくることを予想させる黒と青のちょうど間の神秘的な色合いをしていた。
遠くから潮音が響いてくる。


しかし・・・・・・・・やっぱり眠いぞ。しかし、朝日が見たいし。しょうがない、少しだけ仮眠を取ることにしよう。ほんの5分だけ・・・。私はテントに再び入った。





                            zzzzzzz



二度寝は魔物である。あなたの予想は当たった。私はぐっすりと眠りこけ、再び目を覚ましたときは朝日の情緒どころか、潮岬キャンプ場は朝食作りに励む人であふれていた。
「あ〜やってしまった・・・。」さすがに落胆する。
Dがおきてきた。彼はたいした体力を持っているようで、12時間もの間爆睡していた。
人が多いとはいえ、やはりここは本州最南端だ。実に気分のいい朝を迎えることができた。ここで二人で写真を撮った。

            

この開放感。私の最もすきなキャンプ場である。あなたにもおすすめする。


テントに戻りながら、Dがおもむろに言った。
「あのさ、言いにくいねんけど、今日の夕方までに家に帰りたいねん。実はバイト先の先輩が就職するからそれの見送りがあって・・・。」
「今日の夕方まで?」
丸二日かけてきたものを一日で戻るのだ。改めて言うまでもなく、ここは端っこなのだ。
だが、彼の理由もわかる。

「だから、今すぐ出発しないとまにあわへんねん・・・。ごめんな。」
「いいよ、いこう。でも一箇所だけどうしても寄ってほしいところがあるねん。」今まですべてDの推薦で見てきたが、私にも一つだけこだわりがあった。


昨日、ループしていった道を再び走る。今、九時過ぎだ。急がないと・・。

42号線を外れ371号線にはいる。大阪と和歌山を結ぶ道がこんなところまできているとは知らなかった。途中で途切れながらも、細々と山間を縫って本州最南端まで来ていたのだ。

1時間近く走ったとき、、先を行くDの叫び声が聞こえた。そう、ここが私が来たかったところなのだ。




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