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   限界のそのまた先へ 紀伊半島迷いの一周 8





今、目の前で起きていることが現実とは思えなかった。夢の中に

いるかのように、体の感覚がなくふわふわとどこかをさまよっている

ようだ。心臓だけが体のほかの器官とは不釣合いにドキドキと早鐘

をうっている。

私はバイクを停めるともうすっかり暗くなり荒涼としている畑に目を

やった。なんの畑だったか今でも思い出せない。ただ、突然吹いて

きた風が苗を揺らし、苦しみに喘ぐような音をたてたことだけは、記

憶に残っている。

その作物たちの叫び声を聞きながら、私の心にこんな妄想が浮かんだ。

「ついに、一人で旅をするのか・・・。」出発した直後にFが転倒して旅を

断念した。そして、いま、Dが。なぜか、もうろうとした気持ちの中で

私は一人で旅をする光景を心に浮かべていた。






そのDは・・・。


Dはすでに自力で立ち上がり、バイクを起こそうと必死になっていた。

あ、よかった。大きな怪我はないようだ。彼の巨大なマシーン様は一人

では起こせない。私もあわてて手を貸した。

「どない?怪我はない?」

「大丈夫、少し顔を打っただけ。」

「顔をどうやって打ったん?」

「何でかしらんけど、こけた瞬間にひざが当たってん。」

「どんな、こけかたやねん・・・・。でも、よかったな。旅はなんとか続けられそう

やん。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・? お前、

それ・・・・・・・・・・・・・・・・?」











Dの顔を見た私は思わず凍りついた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。さっきの

事故よりももっと現実のものとは思えなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

心臓が爆発しそうに大きく鳴り出した。







そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Dの顔には・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・美しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



















                        鼻血様が!













「うがはははは! お前、それ!」

彼は自分の鼻血様には気づいていなかったようだ。怪我はしていないが、鼻血が

たらたらと鼻腔から流れ出している。

一日に二回も鼻血を・・・・・・・!失礼とは思いながらも、これが笑わずにはいられない

のだ。自分でひざうちをして鼻血を出すとは!?

そして、彼は当然、鼻にティッシュを詰めだした。







ぶ!










この顔がまた笑える。が、あんまりそれを言ってもかわいそうなので、もう何も感じて

いないふりをして話を進めた。

「旅、続けられそうか・・?」

「いけるよ。おそなってごめんな。潮岬はまだまだ先やろ?急ごう。」

確かにそうだ。もう夜になっていた。彼は再びバイクにまたがると、ゆっくりとエンジンを

かけた。バイクは壊れていないようだ。さっきと同じ音を立て始めた。Dは、また走り出した。

ティッシュを風に揺らしながら。






旅の夜は早い。夜が訪れてから移動をしていると、なぜか不安になる。国道42号線の

左に見える海は薄暗がりの中で白波を立てていた。その音は昼間は心地よいのだろうが、

今は私たちを追い詰めるかのように、断続的に耳に響いてくる。


途中ふと思いついて写真を一枚撮った。






民家は途切れることなく続き、やがて串本の町に入った。今日は相当走っている。

もうすぐ本州最南端だ。途中のコンビニにふと目が行ったが、今は先にキャンプ場に

着きたかった。

「やば・・・!」ガソリンがなくなりかけている。ふと見ると都合のいいことに目の前に

スタンドがあった。そこで補給しながら潮岬キャンプ場の場所を聞く。

「あそこは、この県道を入って5キロほどかな? 無料でテントをはらせてもらえるよ。」







ガソリンスタンドのある曲がり角を左折し、いわれたとおり県道41号線にはいった。

潮岬は紀伊半島から盲腸のように一つ小さく飛び出した形になっており、41号線は

その周遊線となっている。

民家の数が急に少なくなる。あと3キロくらいだろうか? もうすぐゴールだ。しかし、

今日も波乱に満ちた一日だったなあ・・。はやく、テントで眠りたい・・・・。そろそろ

体力も限界だし、原チャリのエンジンもそんなに長い走りには耐えないだろう。ピーク

を超えた空腹はもう感じなくなっていた。







おかしい・・・・。なかなかつかない。この半島はこんなにでかかったのかな・・?Dも

いぶかしそうな顔をしている。もうとっくに着いてもいいはずなのに・・・・。








向こうにガソリンスタンドが見えた。あそこで道を聞こう。スタンドは明かりを消し、もう

閉店の準備をしていた。が、一人の店員がいたので道を聞く。

「すいません、潮岬キャンプ場はどこですか?この近くと思うんですけど。」













「あそこは、この県道を入って5キロほどかな? 無料でテントを

はらせてもらえるよ。」







・・・・・・・・・・・・・・は? このセリフは・・・・・・・・・・・・・・・・?!










もう、絶望的・・・・。










やってもうた・・・・。







「あ〜いやじゃ〜!」思わず声が出た。岬の周遊線を私たちは必死でループし、

元の場所に戻ってきていたのだ。店員もそれに気づいたらしい・・・。












ぶ!



彼が噴出したのを私は見逃してないぞ。


が、そんなことにこだわってはいられないので、急いでその場を逃げ出した。



腹減った・・。疲れた・・・。もう、限界や・・・・。


しかし、どこだ? 潮岬キャンプ場様は???




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