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                            限界のそのまた先へ  紀伊半島迷いの一周 3




                      辛うじておじいさんをよけたバイクは、大きく傾きそのまま倒れこんだ。

                      勢いがついていたためスライディングするように地面を滑っていった。

                      400ccの大バイクは最後に人間の声にも聞こえる妙なうなり声をあげ

                      止まった。

 
                      転んだのは私ではない。私は小さなバイクだったため、とっさによけたが、

                      ある程度距離があったはずのEがパニックを起こして転倒したのである。


                      あわてて駆け寄る。



                     やらしいことに雨は余計、強く降りだしてきた。

           

                     どこも怪我はしていない。しかもバイクも傷がついた様子はなさそうだ。だが、

                     彼のテンションは完全に下がっていた。そのため彼はここで旅を終え、帰宅

                     することにしたのである。




                     E の旅はこれで終った・・・。


                     さらば・・・。


                     彼は何時間もかけて荷造りをしたといっていた。すべての荷物を使うことなく、

                     終ったのである。







                     そして私の旅はまだまだ続く。二人になってしまった。大バイク様とミニバイクは、

                     再び走り始める。

                     雨足は弱まる気配を見せない。粒が顔に当たり痛い。



                     国道309号線は奈良県大淀町で370号線とぶつかる。直進すればものすごい

                     山道となった後、天川村で国道は姿を消す。左折すれば吉野川と並びながら

                     緩やかな坂道となる。



                     二台のバイクは左折し、今日の宿泊先であるユースホステルを目指した。



                     街灯の間隔が恐ろしく広くなり、その暗さは雨とリンクして見通しが今まで以上に

                     悪くなってきた。


                     早く宿に着きたい・・・・。が、なかなかつかない。言い忘れたが私は死ぬほど

                     方向音痴である。

                     そして、どうもDもそうらしい。さっきから時々立ち止まって地図を見るが、二人の

                     意見が妙に一致する。私と同じということは道を間違えてる危険性が非常に高い


                     もう、ついてもいいころなのに、それらしい雰囲気というか街並みに出ないのだ。


                     九時前だというのに暗く寝静まった集落の中に二人はバイクを停め、顔を見合わ

                     せた。

                     「なんか、変やな。ここはどこ?」

                     「ユースのすぐ近くなはずやねんけどな。」
 
                     「そうやんな。もう、見えるころなんやけど・・。あ、あれ!」Dが指をさした。

                     見ると、明るい電灯のついた看板がある。

                     「あれやで、あれ!俺、ユースには何回か泊ったことあるけど、ああいう明るい

                     看板がついてるもんやねん。」これは私。

                     「そうなん?よかった、お前が詳しくて。いこうぜ!ようやく暖かいほかほか

                     お風呂と、ぬくぬく布団と、ぬくぬく枕にありつけるやんけ。」

                     ・・・・・・・・・・・・・ぬくぬく枕ってなんだ??まあいい。とにかく、明るい

                     看板が見えたらこっちのものだ。よかった!




                     あと、もう少し・・・・。寒い、雨が冷たい。でももうつく!だから・・・


                     がんばれ・・。


                     到着!







                     あれ?



                         ・・・・・・・・・・・・・・みなさん、この展開予想してたでしょ・・?









                    そこにはこう書いてあった。



                    「○○ホテル、ご休憩・・・円、ご宿泊・・・円。」



                    「なんやねん!?これがユースか〜!?ここはカップルでよく行く、

                    その、例の・・。」

                    「全体としては似てるけど、よく見ると多少、似つかわしく

               ない点もあるな
。うん」

                    「ぜんぜんちゃうやろ〜!あほか〜!!!!」

                    「ま、まあね。とりあえず行こうぜ。」

                    もう、ユースの門限ギリギリである。見つからなければ野宿か??寝袋もテントも

                    あるが、こんな雨の中で?

                    絶対にいやである。必死で走る。雨なのに眠たくなってきた・・。気持ち的にも

                    どうでもよくなるものだ。


                    結局はずぶぬれになって走っているおっちゃんを無理に呼び止めて道を聞いた。




                    ユースは全然違うところにあった。


 
                    これは帰ってから調べたのだがユースの近辺にそういったホテルはなかった

                    のである。

                    では、私たちはどこまで行っていたのだろう。ちゃんと地図を見ていたのだが。



                    震えながら飛び込んだユースホステルでは、やさしそうな女の子が私たちを

                    出迎えてくれた。

                    これはうそではない。大雨の中、到着の遅かった私たちを心配して待っていて

                    くれたのだ。

                    トラブル続きの旅の出だしの中に、唯一のこっている素敵な思い出である。

                    あとは、なんというか不幸のズンドコばかりである。・・・・・・がこれから旅も

                    面白くなる「はず」である。


  


                    風呂に入って体温を取り戻した私たちは明日のプランを考えた。問題は雨である。

                    布団の中で二つの計画を考えた。



                    「よし、このプランやったら雨でも晴でも有意義やな。」

                    「いいねええ。」

                    「もう一回言うで。晴れの場合、168号線を南下して谷瀬のつり橋で青春したのち、

                    海に行ってくじらをみる。泊りは潮岬。」・・・・くじらとは何かとお思いだろうが、

                    和歌山の海では極々まれにくじらが出るのだ。あほな私たちはこのとき必ず見られる

                    と思い込んでいたが・・。



                    では谷瀬のつり橋で青春とはなにか。それは次の章でお話しする。

                    「で、次は雨の場合な。昼までこのユースにおらしてもらって、そこからなんとか

                    南下、谷瀬のつり橋で青春したのち、くじらを見て、泊りは潮岬。」

                    「完璧やん。俺ら、旅のプランナーできるで。」

                    本当にアホである、われわれは。雨でも晴れでもほとんど同じではないか。



                    知らないうちに眠っていた。



                    夜の1時過ぎ・・。二人はすさまじい悲鳴で目が覚めた。絹を引き裂くような
  
                    断末魔にも似た悲鳴であった。





                                                           
                               バイク王 

 

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