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         自由と決別するとき

              僕らの最後の冒険


            地図を持たずに、適当に、いつまでも、どこまでも
       

                後編 
                    の 
                Part2
 
                            の 
                      下
                         の

                    続編

                             

                                              つまり最終回




今、自分が見ているものが信じられなかった。
アホみたいに三脚が線路の上に乗っている。
その三脚には数十メートル先にある列車のライトが当たっている。
金属部分に反射してきれいだな、そんなことを考えていた。

早くとらなきゃ、そう思っても体が動かない。
このままだと大惨事を引き起こしてしまう。
私のせいですごい事故になったらどうしよう。
このままだとそれは現実のものとして突きつけられてしまう。

でも、線路に降りてあの三脚を拾い、そしてさっき苦心惨憺して上ったホームへもう一度戻れるのか。


あと少しのところまで列車は迫っている。


戻れる確立は何パーセントくらいだろう。
それより惨事を引き起こしたらどれくらいの罪に問われるのか・・?





たった数秒の間にこれだけのことを考えた。
3、4秒か、あるいはもう少し短かった気がする。
ちょうど試験終了数分前に急激に頭が回転してきたときに似ていた。
だがそれと同時に大声で叫びだしそうになる錯乱した心境も湧き出してきている。




私の横を何かの影が通り過ぎた気がした。
正確には白い影だった。
白いものは不意に姿を消したと思ったら、直後また視界に現れた。
数秒後、今度は列車が私の視野を覆った。

回送列車ではなかった。中から信じられないくらいの人数が降りてきた。
こんな山奥のどこにみんなは帰っていくのだろう。
しかしそんなことを考えている場合ではない。
あわてて駅の外へでた。いや、よろけるように三人ともくずおれながら、出ていった。





「なんでやろ?」洋一がようやく言葉を発した。誰かの声を聞いてようやく自分たちが、さっきまでとかわらず今、ここにいることが実感できた。
「10時半には終電は通り過ぎてるはずやのに。」
「今は11時半やな。でも、あの駅に確かめに行くのは嫌や。」数メートル先の駅が、今の私たちの目には恐怖の対象として映った。近寄りたくないのだ。
洋一はこう続けた。
「おかしいなあ。たしかに時刻表の列車は23:30で終わってたぞ。」





車に乗り込むとき、一樹が手渡してくれた。
「これ。」



あ・・・・・・・・・・・・

そうや・・・・・・・・・・・・・・・



三脚、


あの、三脚・・・・・・・・・一樹が取ってくれたのか。あの白い影はTシャツを着た彼の姿だった。



なんと言っていいのか分からなかった。
「お前がとってくれたんか・・・。ありがとう。」
「いや、俺も良く覚えてないねん。」
「ごめんな。」
「いや、ほんまに俺も覚えてないことやから、気にせんといて。」
彼はそういってくれた。だが、受け取った三脚は一樹の手の汗でぬれていた。





車に乗り込んだとき、突然、何かがこみ上げてきた。安心したことで恐怖感が沸いてきたのだろうか。
それとも友人への感謝だろうか。あるいは・・?
大声で泣きたくなった。でも、我慢した。
なぜならあと少しで日付が変わるのだ。
俺は社会人に戻るのだ。だから泣いてはいけない。そう思った。


山道は何事もなかったかのように、さっきと同じ様相で私たちの車を導いている。
「最後の最後ですごい冒険やったな。」
「たしかに。漫画みたいや。」
「なんか、一週間くらいこうしてふらついてた感じがするわ。丸二日だけやのに。」
「でも、こうして二日も自由に適当に遊べることなんて、もうないやろうな。」
「そうなんかな。社会にでたら、自由がなくなるんかな?冒険できなくなるんやろうか。」明日から社会人になる洋一は、誰に向かって言っているのかわからないくらいの小さな声で言った。





いつの間にか車は広い通りに出ていた。わずかに人の姿がある。スーツ姿だ。
「あの人らも、やっぱり冒険をしてないのかな?」私も心の中で考えた。





しばらくいったところにインターがあった。
「高速使うで。」洋一が言った。
「そうして。でないと、明日は俺は・・・・・出勤や。」一樹の声はなにかを決意しているようだった。

40時間かけてたどり着いた冒険の地なのに、帰りは4時間だった。たったの4時間。
この時間の差が、自由な少年と責任ある社会人の違いなのだろうか。


住み慣れた地に近づいている。もうすぐだ。朝とも呼んでもいい時間だ。




私の家の前に着いたとき、二人も車から降りてきた。
「お疲れ。ありがとうな、ピースケ。」
「え、なんでありがとうなん?お礼を言うのは俺やろ。」
「だって、遊んでくれたから。」


二人を乗せた車は走り去った。
家に入る気がせず、私は真っ暗な道にたたずんで考え続けた。


そもそも、大人と子どもの差はどこにあるのだろうか。
もう私たちはこんな冒険は出来ないのだろうか。
社会人になれば24時間表示の時刻を使うことにも慣れねばならないはずだ。
それどころか、時計を見ないですごすことは許されないはずだ。
「適当」は消えてしまう毎日が待っている。
一番心配なのは、昨日の一樹のように夢中で人のために何かをすることをも捨てねばならないのだろうか。

では、時間を共にすごしたことを「ありがとう」と思える純粋な心はどうなるのだろうか。
私は暗い道と、明るい星空を交互に見ながらいつまでも考え続けた。





あれから二人とは会ってはいるが、それでもあんな冒険はしていない。それぞれ忙しいのだ。
洋一もちゃんと24時間表示を理解できているようだ。
一樹は・・休みが月に一日しかない職場で働いている。疲れてはいるが、めげてはいない。立派だ。
もう僕らは自由と決別しているのだろうか。あの冒険が最後になったのだろうか。






いや、それなら社会人はあまりにも辛すぎる。
物理的な時間は少なくても、やはり馬鹿をやる心は残せるはずだ。
ただ、それを俺ができるかどうか、なのだ。そのときはそうおもった。



いつかそんな心をなくす日は、すぐやってくるのか、
うんと未来にやってくるのか、

それとも・・・・・・・


心だけは、いつまでもどこまでも自由なのだろうか。


答えは、これから歩いていく道のりが与えてくれるだろう。


まだ私はその答えに出会ってはいない。
だから自由とは決別しては、いない。


                                           終わり

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