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インドへ、そしてマザー・テレサへの道
第30回 破傷風の恐怖におびえる 編
やれることはすべてやろう。
ただ夢中だった。そうするしかなかった。
それでもやっぱり浮かぶのは悪いことばかり。
インドにさえ来なければ・・・。
空を見上げると見知らぬ鳥が飛んでいた。
絶望感でいっぱいだったこの時より時間は3分前にさかのぼる。
充実感でいっぱいだった。
少年期よりあこがれていたガンジス川。
その日本から数千キロ離れた聖地で沐浴ができた。
体には見たこともない物体がいっぱいくっついているが、それも尊い物に見えた。
少し向こうにまた区切られた川原があった。
何気なく歩いていくと・・・
「おお、ジャポニ。会いたかった。」
またか・・・。
とおもったが「頼む、私の頼みを聞いてくれ。」
そういったおじいさんは一体年齢がいくつか分からない容貌だった。
案外若いのかもしれない。でも雰囲気はすでに老成した修行僧のようだった。
「一緒に写真を撮ってくれ。」
「はあ、いいですよ。」
なぜかカメラを必死に拝むおっちゃん。
他にもいろいろと言ってきたのだがどうしても聞き取れなかった。
自分の語学力のなさが悔やまれる。
せっかくだ。最後にもう一度ガンジス川の水に浸ってから帰ろう。
「ああ、だめだめ!そんなことをしちゃ!」
おっちゃんが怒り出した。
「ジャポニ、裸足で入りなさい。神聖な川なのだから。」
ありゃ、了解です。しっつれいしました。
おお、裸足で入ると中はこんなにぬるぬるしているのか。
うほほ、ちょっくら気持ちいいいいじゃん。
足の裏の感触を楽しんでいた。そして一段ステップを降りた。
チックーン!
鈍い痛み
正確に言うと足の裏に何かが刺さっているのが、患部を見ずともその感触で遠い脳髄で察知できた。
やば。出血だけはしてませんように。
こういう期待は完全に裏切られることが多い。
陸に上がったとき、私の足の裏から血が流れ出るのが見えた。
目をそらしたいけど、残念ながら完全な事実だ。
何を踏んだのだろう?
ガラス?貝殻?あるいはもっと不潔なもの?
傷口はかなり小さい。がだから余計心配なのだ。
もうこの言葉しか心に浮かばなかった。
「破傷風。」
生来の心配性から旅の直前に予習をしていたが、その言葉が浮かんできた。
土壌中に棲息する。傷口から破傷風菌が体内に侵入した場合、深部で嫌気性発育する。
浅くても深い傷が特に問題となる。
旅行者では、
裸足で川遊びなどをしたり、誤って物を踏んだときに足に傷を負ったり、
運動中や交通事故、動物にかまれてけがを負ったときなどに、感染が多くみられます。
日常けがをしないよう心がけ、傷を負ったときは、まず水で傷口を洗い流し消毒します。
破傷風菌は空気に触れない状態を好む菌で、傷口がふさがると増殖するので、不用意に傷を閉じたりせずに早めに医師に相談して下さい。
抜粋
旅行者では、
裸足で川遊びなどをしたり、誤って物を踏んだときに足に傷を負ったり
もろじゃん。
この小さな傷口が余計に心配だった。
顔面蒼白・・・・・・・・・・。
やばい。
思いっきりやってしまった。
今すぐ日本に帰らねばならないのだろうか?
いや、このまま帰れないのでは。
初めてインドへきたことを後悔した。
俺はどうなるんだろう・・・??。
インドでずっと闘病生活?それともあのガンガーで!?
太陽の光が私を焦がす気がした。
心臓から流れ出したあとの血液の音がする。
普通、恐怖感に襲われたときは心音が聞こえるものだが、
今は血の音がする。
でも顔からは血の気が引いているのがよくわかる。
予防接種をしてこなかった自分を悔いた。
どうしよう・・・。
テンションが一気に数百分の一に、いや、数億分の一になるのを感じた。
とっさに袋の中をさぐった。
心ではいろんな想念が動いていたが、体は別の形で自動的に動いた。
荷物の中をまさぐった。アレがあるはずだ。
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