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 みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 
                                       2004年春編   第4回
                             (岩本寺宿坊)


窓からお寺が見える。途切れることなく人がやってくる。ほとんどの人が団体だ。そしてあっという間にいなくなってしまう。みんな急いでどこへ行くのだろう。
あんなにたくさんの人がいるのに、私は独りだ。

周りに人のいない孤独感だって辛いが、
人ごみの中の孤独もまたつらい
と、
このとき感じた。
しかし、辛がっていてもしょうがない。別に友だちを作るために遍路に来たのではない。細事にこだわっていては、せっかくの短い休暇が無駄になる。
友だち作りは捨ててしまおう。それも、楽しきかな人生だ。

気持ちを切り替えるために、洗濯に行った。

40分ほどして戻ってきて、あっと驚いた







私しかいなかった三間続きの部屋に、今はものすごい数の人がいる。いつの間にわいてきたのだろう?ここは宿坊とユースホステルを兼ねているので、GWの今日は相部屋なのだ。遍路もいればバックパック風の人もいる。
みんな、それぞれの連れと旅の思い出を語り合っているようだ。


ワイワイ、ガヤガヤ

というなんの工夫もない擬音語でしか、この部屋の様子は表現できない。それほど私にとってこの喧騒は無機質なものであった。
でも、今、眼前にいる人たちがなんら悪いわけではない。

私は部屋の隅に座り、人々を眺めていた。



目の前に二人の外国人と、その友人らしき日本人の青年がいる。外国人と旅するのもいいなあ。彼は通訳か、ガイドでもしてるのだろう。



この旅が終わったら今度は思い切って言葉の通じない外国へ行こうかな。それとも、人気のない北海道の先っぽか、沖縄の先っぽへ行こうかな?
いつしか目をつぶって、妄想にふけっていた。
北海道の突端ではやっぱりあのポーズで写真を撮らなきゃ。
                                  (これのこと↓)
                       





「ちはっす!」

私を妄想から現実の世界に引き戻す声が聞こえた。
みるとさっきの外国人のガイドさんと思われる青年がいた。まだ現実に帰った気がしない。空気が抜けたような声を出してしまう。
「あ、どうも・・・・・・です。」
「一人旅っすか?」彼が言った。
「うん。」
「バイクか何かですか?」
「いえ、歩き遍路ですよ。」
「あー、あれをやってるんですか。すっげえかっこいいっすよね。」

関東弁を話す彼は埼玉の大学生だという。



「ちょっくら散歩にでも行ってきます。」日が落ちる前に私は付近を歩きたかった。
「いいっすねー、僕も行きますよ。」
彼はこともなげにいった。実に朗らかであり、気負いをせずにしゃべれる人だ。私も短い時間にはなるだろうが同行者が出来たことで、心に陽だまりが生まれることを期待して同行を願った。

「四万十川、見に行きましょうよ。」彼が提案した。
「四万十川?このそばにあったっけ?」
「多分・・・・・・・・・・。ちょっとまって、聞いてきます。」言うが早いか、近くの商店に飛び込んでいた。なんという行動力だ。うらやましさをこのとき感じていた。

「このすぐ向こうだそうですよ。」






道が左右に分かれ、その向こう側に大きな河が流れていた。


「どっかに降りるところないかな?すんませーん!」また彼が飛び出していった。近くの農作業をやっている人に聞いている。いいなあ、あのキャラクター。

二人で服を汚しながら(実はこのときすでに私は寝巻きだった)川原に下りた。

水は冷たかったが、間違いなくきれいだ。

          
     この旅唯一の水遊び、四万十川にて

この河・・。昼間歩いたときにずっと見ていたではないか。
四万十川とは気付かなかった。
もったいない。「ここは日本最後の清流だなあ」だとかなんとか思ってみていれば、また趣が変わったかもしれないのに。

二人でいろんな写真を撮った。かつて少年時代に友人とやったように・・。



いろんなことを語り合った。この旅に出て初めて「人」と話した気がする。

この時の会話は省略する。お互いの生活環境や、旅への思いを語り合った。
ただ、彼の名は「かんちゃん」で、東京のテレビ局に来年就職が決まったということだけ申しそえておく。今は、某バラエティ(というか報道)番組の新進気鋭のADである。



歩きながら午後5時のチャイムがどこからか聞こえてきた。いいなあ、旅の雰囲気に包まれている感じがする。もしかしたら、これまでも聴こえていたのかもしれない。ただ、心に入ってこなかっただけなのかもしれない。今の私なら、全てを吸収できる。


宿に帰った時、人影はなかった。まだ納経の締め切り直後だったが、バスでおみえになったり、団体でお越しになる方は、ギリギリに来たりはしない。
実に皮肉である。
人のいなくなったときに、私は孤独ではなくなったのだから。





風呂へ行った。中には大分在住のハワイ人の方がいた。ハワイの人というと、どうしてもこれを聞いてしまう。
”Do you know AKEBONO?”


その風呂は熱すぎて湯船につかれない。でも、疲れを取るために浸かりたかった。
他のお客さんがいなくなったのをいいことに、水で目いっぱいうめた。
今度はぬるすぎた。
実にくだらない行為ではあるが、これこそがまさに「楽しきかな、旅人生」である。
(岩本寺の宿坊さん、すいません。あの時、バカやったのは私です。)


ぬるい風呂に入りながら聞いた。
「あの外国の方をガイドされてるんですよね。」
「いえいえ、おとといの宿でたまたま一緒になって、いま、また再会しただけですよ。」
「そうなのか。随分仲よさそうだから、旅の連れだと思いました。」
「旅をしてたら、またどこかで彼らにも会えるでしょうね。心配しなくても、いいことはどこにでもありますよ。」



実にいい風呂であり、いい食事であった。
二人でビールを頼み周囲の人にも分けて皆で乾杯をした。



それにしても・・・・・・・・・
                                   
この人数・・・。

いったいこの人たちはどこから来てどこへ行くのだろう。私とすれ違った人は一人もいまい。

午後七時半には彼は布団に入っていた。
私も周囲のワイワイガヤガヤが遠くに聞こえていたが、すぐにそれも消え果た。
「心配しなくても、いいことはどこにでもありますよ」というかんちゃんの言葉への追憶が、この日最後の思考だった。
この日の就寝、なんと7:30。                


                              
         



                                  

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