みんな、ありがとう 普段着お遍路の記 2003年冬編 第15回
                                                 (31番から32番へ)
目の前に老婆が二人たっていた。
同じ顔をしている。
さっきまでいなかったぞ。下を向いてげろを吐く直前(実際には吐かずに必死でこらえた)にはいず、顔を上げた時にはもうそこにはいたのだ。

「老婆」などと書くと不気味な感じがするが、要はおばあさんが二人いきなり現れたのだ。
そっくりなおばあさん。ちょうど「小竹さん」と「小梅さん」のようだ。(とある小説より)。
小竹さんはしばらく私を不思議そうに見つめたあと「兄ちゃん、がんばりや」そういうと下に向かって歩き出した。小梅さんもそれに続いていった。

「あ、はあ。どうも。」キツネにつままれた私はそう返事をした。二人は夕闇の中に消えていった。
うお!思わぬ時間を食ってしまった。また私は走った。
小竹さんと小梅さんがどこから急に現れたのか、それは今でも分からない。

が、どうでもよい。



いつの間にか道は不思議な公園に入っていた。


        

        当時の日記より

        脚が痛いのになんやねん、この複雑な道は!!

        でもこの山を越えれば下るのだ!がんばれ、俺。

        あれ?なにこれ?

        傍らにはこんな看板があるぞ。

        ミニ遍路道

        なんやろ・・?まちがえた〜??

        なめてんか。

        挙句の果てになぜか鍵のかかった門に到着してしまった。

        おれ・・・、閉じ込められた?

        「その黒い左の門から出えや!」

        むこうからタクシーのおっちゃんが呼びかけてくれた。




無事に脱出すると目の前に31番。
            
                     29日15時22分 31番霊場竹林寺


はいってすぐに納経所があった。迷わず納経。
「お兄さんの脚なら次の札所までは一時間ほどね。で、その次は5時には間に合わないわよ。車なら大丈夫だけどね。」納経所の上品なおばちゃんが言った。
「大丈夫です。車くらいの速さで走ります。」
あっけにとられたおばちゃんをよそに猛烈に走り出した。
心の中で爆風スランプの「ランナー」が鳴り響く。


え?

                                    納め札ですか・・・?
                        線香でございますか・・・・・?
              般若心経とな・・・?



すいません。
すべてさぼりました。(みんなあ。ひさしぶりだねえ。byタコ君)



すぐに下り坂となる。俺はマッハで走った!
行くのだ!
その刹那、石畳に脚を取られ、思いっきり足首をひねった!
       

なんともいえない感触がよぎる。いだい・・・いだずぎる・・・・。
が、どうしてもここでくじけてる場合ではないのだ。痛がるのは後に残しておいて、さらにマッハで走った。



やがて遍路道は川ぞいへと進んだ。


前方に橋が見える。それを左に見ながら曲がった・・・・・・・・・・・。

ん?なんかこの文字、見覚えがあるぞ。

その時出発直前の掲示板の書き込みを思い出した。
先日言った是非写真を撮ってもらいたい所。高知市内の『下田川へんろばし』という所です。

『へんろ』という名前が、地元の人も使う橋に書いてあるのは、感慨深いです。

で、橋をバックに、あのポーズ!の写真が見たいです。

出来ましたら宜しくお願いします〜。

ちなみに傍の川でジャンプしている魚がいたら、それは『ボラ』ですって。ちゃんと地元の友達に確認済です。飛び跳ねる魚とはビックリ。

それと、32番と33番の間に須崎?の渡しがあるのですが、私の行った時は強風の為運休になってしまったので見てみたいです。

渡しって、どんな感じなのでしょう。 松山在住の宮崎建樹さんという方(お馴染みの、あのシール・立て札の方)が、渡しは本来の遍路道、と本の中で言っていました。

その他のいろ〜んな道。どこを撮るのか楽しみです。
これはある方が書き込んでくださった内容である。心には留めていたが、走っているうちに忘れてしまった。そしてこの橋を見た瞬間に思い出したのである。私は必ず写真を撮りますと返事をした記憶がある。
「下田川へんろ橋」 ここに違いない。
ただ、この方がおっしゃってる「あのポーズの写真」とはどんなものか??
おそらくはこれであろう。

私はまよわず写真を撮った。
もしポーズが間違っていたらごめんなさい。

書き込みを頂いて13ヶ月、ようやく約束を果たせて、今、私はほっとしている。


また私は走った。
あとは32の納経だ。今は4時過ぎだ。やばい!
また住宅街に入る。真冬だが薄い長袖シャツ一枚で走り続ける。
のどがからからに渇いている。自販機で夏みかんゼリーを買う。
また走る。



犬を連れたおじいちゃんが、汗をびっしょりかいて走る私を見て「えらいねえ。」
さらにむこうから3人組のおばちゃんが来た。「ご苦労様ですー。」
今日は本当にたくさん人に声をかけていただいている。
それなのに私は走っている。時間に縛られている・・。



おや?むこうに巨大な屋根が見える。もうついたのか!
すばらしい。
やったあ!
やった・・・・・・、あれ?
天○教?
ふんぎゃ〜!!ここではない!
また走った。



そしていくつかの角を曲がったその先には急坂があった。とどめである。
それも山道だ。冬なお苔深い石の道を行く。膝がいたい。さっきひねった足首の痛みも、地の動きに連動してズキズキ言い出している。



脚が急に止まった。自分の意思とは無関係に止まった。
あほう!進め!間に合わないやろ!
でも体がこういっていた。
「俺は何をしてるのだろう?」

またこの疑問が湧いてきた。
それは今頭上を飛ぶ鳥のささやきほども大きくはなかった。
だが、それの持つ意味は、これまで生きてきた数十年の私の人生の中でも最も強く胸に刺さった。
体がついに進むことを拒否し始めたようだ。もともとガラスみたいな体に鞭打って歩き続けたのだ。今日に至ってはずっと走っている。心身のバランスが崩れてもおかしくはなかったのだ。
その疑問に私の魂はこう応えた。
一見無意味なことも体験していくうちに、実は深い意味を持つかも知れない。無意味と無価値は違うのだ。

かくして私はまた走り出した。そして32番到着した時刻、実に納経締め切り4分前!

32番霊場 褌師峯寺到着 16時56分
                                          
          
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