ふもとに下りたとき、そこはもう室戸市ではなくなっていた。今度は奈半利町だ。
時刻はすでに五時近くなっている。冬の日没は言うまでもなく早い。さすがに太陽も海に溶け始めていた。
すこし焦りが生まれた。宿には暗くなる前に着かないと心配をかけてしまう。電話で予約をしたときの声が、どうもおばあさんのようであり、余計に心配をさせたくなかった。さすがに急がねばならない。
そんなときに限ってきれいな海岸線が見えたりするのだ・・。
写真?我慢できるわけがない。
車の量が多くなってきた。奈半利町の中心へ近づいてきたようだ。これまでの山道がうそのような光景が広がる。
「おにいさん、お兄さん!」道の反対側の確か銀行の軒下だったと思うが、おばさんが手招きをしている。
「今日はどこに泊るの?」
「えっと27番下の宿です。」
「あそこはいい宿よ。バス停でも寝られるけどもう寒いしねえ・・。でもなんでお遍路になったの?」
ついに聞かれた・・。これまでいろんな方と会話をしてきたが、実はこの質問だけはなかった。そして、私自身これに返答することはできないのだ。自分でも答えを持っていない・・。
「ううんと・・・。わかんないんですよ、自分でも。」
「わかんなくてもいいじゃない。若いうちにやれることやってね。じゃあ、がんばって。」
わかんなくてもいいじゃない・・・・・・か・・・・・。おばさんたち、どうもありがとう。
奈半利川橋を渡った。川を照らす夕日ももはや限界のようであり、光量がなくなる寸前だった。
ふと見ると、向こうに鉄橋が見える。いい光景だ。ここから「ごめん・なはり線」が始まるのだ。
30分がたった。もう6時だ。知らない間に街灯のない暗い田舎道になっている。宿ではおばあさんが心配しているかもしれない。時折通る車のヘッドライトだけが頼りだ。
意識して早足で歩く。風の音がうるさい。うるさい・・・と言うか、うるさすぎる・・。
これは・・・風ではなくバイクの音だ。それも・・・ブウン!ブブンブン!とやたらとふかしている。暴走族ならいやだな・・。遍路ならある程度の金を持っていると思われるかもしれない。でも、もしかしたら単なる走り屋で、暴走族ではないかもしれない。そうだ、大丈夫だ。
ブン!ブン!ブン!
パラリラ
パラリラ
パラリラ!
あかん!完全に暴走族やんけ!おいおい、頼むで、ほんまに・・。
ところが、その音がどうも私をつけている気がするのだ。
だんだん音が近づいてきた・・・。
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