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みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記 第一部 第10回



                        
 旅の途中に一度逃げることを覚えると、次からは避けて通ることに

                     罪悪感が消えてしまう。困難からそれることが必要な場合もあるが、

                     癖にはしないほうがよい。

                     残念ながら根性のないピースケ君は、無意識に納経所が近くにな

                     いか探していた。



                     だが、そこにあるのはこの灰色の階段だけであった。






                      しかも、こんな嫌がらせのような文字が・・・。



                                                 



                     なんでぞろ目なんだろう?偶然ではない。きっと、きっと本当は

                     304段くらいだったのを無理に333段にしたに違いない。私が

                     大工さんならそうしたくなる。




                     しかも、情けないことに無意識に近くに納経所がないか探して

                     いる。

                     が、目の前には非情なる灰色の摩天楼がそびえたつだけで

                     あった。


                     やむ終えない・・・。いくとするか・・・。


                     みなさん、これはしたのだろうか?ここで・・。



                     1 2 3 4 5 ・・・・・・・・・・・・・・・・


                     21  22  23  ・・・・・・・・38・・・・・・・・・49・・・・・・

                     6、・・・6・・・?・・・・・・・・!



                     ふんぎゃ〜!もうめんどうくさい!なにより、数えたりしたら、

                     段が増えそうな気がする。やめた、やめ!

                     数えずに登っていたら、知らない間にゴールしているはずだ。


                     おそらくだが、このどこまでも続くような階段をみんな数えた

                     に違いない。そして、かなりの人が途中であきらめたはずだ。

                     きっと・・・・そうだ・・。





                     無限階段はおもったより、はやくゴールが来た。最後のステッ

                     プまで、あと 5、4、3、・・・・いやあ、減っていくのは快適だ

                     なあ。

                     1・・・・0!



                     ゴ〜ル!

                     おめでとう、俺!

                     やっぱり数えなかったら早いなあ!


                     にしても、狭いな、ここ・・・・・・・・・・・・・・・。んが!

                     なに?この文字?



                                     

                     (あまりにひどい内容なのでマル秘あつかいです。見ないでください。)



                     早すぎると思った。無邪気すぎる自分が情けなかった。

                     しかし、死にそうに登ってきたのに、まだ99段しかきて

                     いなかったなんて。

                     そのときなぜか、得意の(?)物まねを誰もいないのに

                     してしまった・・。


                     「こ、こんばんは!森 進一です・・・!」
                        ↑・・まったく意味はありません。でも、このときはこんなかすれ声が沸いてきました。


                       


                     いったん段が区切れて踊り場となり、そして摩天楼は続いている。



                     一歩踏みあげるたびに、ぐっじゅりぬれたかっぱの中の

                     ズボンがまとわりつき歩みを邪魔してくる。だのにのどが

                     からからに乾いていた。この体の外がぬれて、中が乾く、

                     という感触が実に不愉快だ。

                     快適とはこの逆を言うのだろう。


                     ひざの痛いのもわすれた。もう、痛みと不快感は全身に

                     回っていた。

                     一瞬めまいがしたが、それも気のせいだと言い聞かせ、最後

                     の一段をあがった。



                                10時35分 十番霊場 切幡寺 到着


                     納め札も納経も後回しにして、こともあろうに本堂のいすに座り

                     着替えをした。カッパの下のシャツもズボンも水につかったみ

                     たいにずくずくだ。これは雨だろうか、汗だろうか?本当なら

                     トランクスも替えたいところだがそれはさすがにできない。

                     ただ不思議なことに靴下は乾いていた。よほど靴の性能がよかった

                     に違いない。






                     しかし、腹が減ったなあ・・・。でも、何もないしなあ・・・・・。

                     あ、バナナくん!君がいたんだ!うっき〜!




                     ここでお話は6時半の朝食のときに戻る。

                     再び宿の4人が勢ぞろいした。一期一会という言葉は事実であり

                     尊くもあり、そして何よりさびしい。

                     何かのご縁でしょうということで自転車遍路の東京のWさんご夫妻、

                     三重のおもろいおっちゃんのNさんに、このHPのURLを伝えた。

                     Wさんは今も掲示板にお越しくださっている。


                     Wさんの奥さんがこういった。

                     「このバナナ君って・・・?もちかえるのかしら?」

                     朝食にバナナがついていたのだがその下に袋があり、そこには

                     「バナナくんお持ち帰り袋」とかいてあったのだ。




                 

                     宿坊である安楽寺さんの遍路への配慮である。

                     バナナが大好きな私は(うっき〜)すぐにでも食べたかったの

                     だが、周りの方がそうするというので、私もお持ち帰りにした。

                     

                     
                     ということでのばななくんなのだ。リュックのポケットから彼を

                     取り出し、もう二度と会うこともないのかもしれないMさんやWさん

                     夫妻を思いながら食べた。お二組との出会いは一瞬であり、

                     永遠であった。





                     実に長い間、この本堂にいた。その間誰も来なかった。一羽の

                     スズメが雨宿りにやってきたが、すぐにどこかへ行ってしまった。

         
                            出発。11時5分。


                     階段を再び下りる。やはりくだりのほうが膝にくる。が、十分

                     休息したせいか、痛みはほとんどなかった。


                     下から一人のおっちゃんが来た。

                     「階段、まだ続くかな?」

                     「いえ、あと少しですよ。」

                     「そう、ありがとう。坊や、夏休み?」

                     「はい、夏休みです。あ、でも、社会人です。」

                     今旅二度目の「坊や」であった。




                     下から一人のおっちゃんが来た。

                     「階段、まだ続くかな?」・・・・・またこの質問か・・。

                     「いえ、あと少しですよ。」

                     「そう、今回はサボらんかったな。ピースケ君。」

                     「へ?」


                     それはNさんであった。白衣だからわからなかった。

                     8番をとばしたのをちゃんと見ていたのである。

                     Nさんとの出会いは全然一期一会ではなかった。





                     同じ道を戻るのはあんまり楽しくない。が、この道しか

                     なかった。


                     雨足はいっそう強くなりフードに当たる音で、周りの状況が

                     わからないくらいだ。しかも、風がかなり吹いている。

                     いよいよ、台風がやってきている・・・・・。




                     平地に出た。風が直接当たる。バタバタ騒ぐフードを

                     脱ぎ捨てたかった。だが、それをすると耳の中にまで雨が

                     飛び込んでくる。どちらにしても事態はよくならない。



                     さっき着替えたはずなのに、もうシャツがべっとりぬれている。

                     汗ではない。四方八方から吹き込む雨のせいだ。



                     遠くの山が見えた。狂ったように吹く風が森全体を揺らし

                     木々は悲鳴を上げた。それは私をあざ笑っているのか、

                     または警告の絶叫なのか。風のうなり声は私の耳元でも

                     騒ぎ立て、私の脳髄を狂わせた。



                     小高い田んぼから、すさまじい音を立てて水が噴出している。


                     ぼろぼろの看板が私の眼前で地面に落下して砕け散った。

                     「さすがにあかん!」 どこかで雨宿りをしよう。

                     周囲はさっきと同じような広々とした田んぼしかなかった。


                     すぐ前を仕事をあきらめた工事の人が車に乗り込み

                     安全なところに走り去っていくのが見えた。





                     広い道路に私一人がいる・・・・・・・・。






                     いや、誰かが後ろから歩いてくる。足音がする。よかった、

                     一人ではない。だが、それは足音ではなく私の動悸だった。

                     体がカーッと熱くなり、パニック寸前だった。






                     天上ではどす黒い雲が信じられない速さで流れていた。

                     その雲の行き先が11番札所・・・・・・。


                                                         


                                       

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