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みんな、ありがとう 普段着お遍路歩きの記
                        
2003年夏編 第一部 第2回

 



                                 国境を越えた。


                              だから・・・・・・・、



                              ここはもう四国だ。




                              その感覚が実にうれしい。

                              旅に出てしまえば、今までの名前や仕事上の肩書きなど、

                              意味のないもの(少なくともそのときはそう思った)が消えて、

                              一人の人として存在できる。 この徳島には私のことを知って

                              いる人はいない。


                              毎朝襲ってくる「今日は台風が来て仕事が休みにならないか」

                              だとか、ストレスを強く感じたときに思う「宝くじにあたるにはど

                              うすればよいか。」などといった、日常の煩悩もしばらくは感ず

                              ることがないだろう。


                              もちろん、いつかは家に帰り職場に復帰しなければいけない。

                              だが、もうそんなことはどうでもいいのだ。

                              俺は今日からお遍路さんだ!



                              そう息巻いたのはいいが、ものすごく引っかかっていることが

                              あった。

                              台風が日本に近づいている。


                              進路図を見ると、ほとんど嫌がらせではないかと思うくらい、
  
                              四国を直撃しそうだ。

                              大体がだ、普段は私のいる大阪に台風が来るぞ、

                              仕事が休みになるぞと期待させておいて、その大半がそれてしまう。

                              なのに、こんなときに限って命中しそうなのだ。大ビンゴだ。

                                 まあよい、台風が来ても俺は歩く。そう誓っていた。



                              このバスは徳島駅に着く。そこから一番霊場のある坂東駅まで

                              は電車で行く。その本数が・・・・・・・・少なすぎる・・・・・。バスが

                              予定通りの10時にきっちりついて、電車の発車時刻10時10分。

                              ギリギリなのだ。時間に追われずに回ってこそお遍路ですよ、と

                              いう声を、何度も道中で聞いた。そのとおりだと私は思う。だが、

                              仕事は消えてなくなってはくれない。



                              ある程度の予定は決めていた。今日はともかく、6番までは行き

                              たいのだ。私の気持ちを逆なでするかのごとく、バスは10時6分

                              に着いた。改札の死ぬほど愛想の悪いお姉さんに、ホームを教

                              えてもらい列車に滑り込んだ。私の背後で扉が閉まった。汗が

                              狂ったように噴出した。


                              ワンマンカーだった。県庁所在地を出る列車にもこういうのがあ

                              るのだ。


                              遍路を実際に始めるまでは、私は四国にはお遍路さんの格好を

                              した人が、そこかしこにいるのだと信じていた。この列車は一番

                              霊場の最寄り駅に停まるのだから、それに関する人がたくさん

                              乗っていると思っていた。
      
                              だが、こんな重いリュックでいかにも旅支度といった風情の人は

                              二両編成に私一人であった。



                              ちょっとがっかりする。








                              平日の朝の電車特有のけだるさに包まれ、誰も言葉を発しない。

                              一人リュックを背負った旅人が興奮して写真まで撮りだしていた。

                              前の章にも書いたが、旅に出ると感性は鋭敏になる。

                              こんな単線の風景が実に美しく心に飛び込んできた。

                                      


                              数分の後板東駅に到着した。誰も降りない。さびしい。



                              仲間は・・?



                              板東駅は無人だった。それでも駅の横に


                              「第一番霊場」


                              と書かれた石碑を見て、やはり「来た!」という気になっ

                              た。今ごろ職場ではアホみたいにみんな仕事をしてるん

                              やろうなあ、なぜかそんな気持ちがわいてきた。



                              霊山寺まではごくごく普通の住宅地であった。でも、うれ

                              しくなって、きょろきょろしてしまう。




                              今回私は荷物が重くなるのを覚悟で一冊の本を持ってき

                              た。「サンダル遍路旅日記」という二十歳の青年が書いた本

                              だ。フィーリング的に近いものを感じて、どうしても四国に

                              もってきたかったのだ。その本の中に「スタートラインだか

                              らと言っても何もなく肩透かしを食らう感じだ」と言った内

                              容の記述があった。



                              その知識があったため、私なりのスタートラインがほしかった。

                              結果、住宅地の中に突如姿をあらわしたこの門(なのだろ

                              うか?)をこれから何年続くかわからない歩き遍路の出発点

                              と決めた。ここからはお寺はまだ遠い。この「四國」という

                              旧字がまた情緒があってよい。



                              門をくぐるときに、ゆっくりと息を吸い込んだ。これからいよ

                              いよ旅が始まる。遍路の動機はわからないと前に書いた。

                              だが、心のどこかで自分の行き方を探りたいという思いが

                              あった。どうぞ、何かをつかめますように・・・。信仰心のない

                              私が礼(あや)深い気持ちで思わず頭を下げ、その石門を

                              くぐった。



                                        

                                           私にとって、ここがスタートライン
 8月7日 午前10時44分


                              横断歩道の向こうにいよいよ霊山寺が見えた。人が多いと

                              か観光バスが停まっているぞ、というのは気にしないことに

                              する。人の流れの切れ目を狙って一枚さらに写真を撮った。

                              これで今日何枚目だろう。

                               
                                         
第一番霊場 霊山寺 8月7日10時48分
                               

                               このままではおまいりができない。何も持っていないのだ。

                              本道の横に売店というか、そういうグッズのコーナーがあった。

                              実はものすごく入りにくい雰囲気だったのだが、思い切って

                              入室。



                              あ〜これか・・・。本で見たいろいろなお遍路用品というのは。

                              にしても誰もいない。しかも奥のほうでは改修工事が行われ

                              ていて、ゆっくりと選ぶことができない。私は駐車場横の別の

                              遍路用品を扱っているところへ足を運んだ。


                              しかし・・・すごい量である。衣装から用品まで。これをすべて

                              本格的にそろえるとなると、いったいいくらかかるんだろう?

                              実は出発前に遍路用品については二つと決めていた。


                              納め札と納経帳である。


                              後は普段着で行くつもりでいた。おそらくきちんとした遍路を

                              なさっている方からすると、よろしくないのかもしれない。事実、

                              以後の過程でそのようなご指摘もいただいた。だが、経済的に

                              訳ありの私にはこれが精一杯だったのだ。




                              ん?そういえば、私は数珠を持っていない。これもいるかな

                              あ・・。本には杖は山道でいるとかいてあったのをいまさらな

                              がらに思い出した。・・・・・・・・悩むなあ・・・。



                              しかし、この狂ったような重さの荷物を考えると、またなかなか

                              ね。
                               
                          

                          結局、会計 納経帳(表紙に柄のないシンプルなもの) 2500円

                                  数珠                      1500円

                                  納め札(白 200枚)              100円



                              ということになった。杖は荷物の重さを考え、断念。服装も

                              普段着である。




                              と見ると、横で家族連れが実に一式をそろえてお買いになっ

                              ていた。一人分で39000円だそうだ。






                              さて、出発だ、そう思ったときカウンターにいた女性に呼び止

                              められた。
                             
                              「お兄さん、歩き?そしたらこのノートに名前書いていってね。」
    
                              それは歩き遍路の芳名簿だった。中を見ると今日一日で、すで

                              に5名ほどの人が出発している。すごいものだ。さらには、今日

                              結願して戻ってきた人もいる。すべてを歩きとおした後って、どん

                              な気持ちになるんだろう・・?それは・・・・・決まっている。自分も

                              それを実現すればわかることだ。





                                 食事を済ませ、納経もあれもこれもすべて済ませ再び

                              歩き出した。

                              時刻は11時三十分。いい時間なのに、太陽が見えない。


                              空には・・黒い雲が広がっていた。


                              これはやばい。私は足をはやめた。


                              


           
     


                                                         四国八十八ヶ所お遍路セット(スターターセット)

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