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失われた学校、村、道、鉄道を訪れた日の記録



                                 寒風吹きすさぶ山間の廃村を訪れた日 6




目の前を鳥が飛んだ。名前など知らない。そんなことを考える余裕がない。

ほんの二時間ほど前なら「おお、寒い冬に命のある限り飛んでいるんだなあ」

とかなんとか感慨にふけっていたのだろうが、今の私の関心はもうガソリンだ

けである。鳥なんぞどうでもいい。早く文明の香りあふるるガソリンがほしかった。

時計の高度計をみた。ここはどのへんだろう・・・。



1000メートル。



1000!?



俺は今そんなに高いところにいるのか?確かにずっと上り坂であったし、川が

もうあんなに下のほうにある。数時間前に緑の水の美しさに心打たれていた、

あの川だ。今はあれがガソリンだったら、などと狂ったことしか考えられない。





メータはすでにレッドゾーンを越えている。一瞬、ガソリンタンクの中をのぞこうと

思った。あとどれくらいあるのか?案外メータよりもたくさん残っていることが

あるからだ。だが、それをすると蒸発を促してしまう。いまは、ただ進むのみだ。

一刻も早く、下りるのだ!都市部へ!

下りたい、はずなのにどんどん、のぼっているではないか。道は一本しかない。

ただ、ひたすらに前に前に進みしかなかった。



あたりの景色がさらに灰色になってきた。時計を見ると四時だった。いま書いて

るのは夏である。どうってことない気もするが真冬の四時は夜の予感をもたらす。

ましてや、ここは廃村である。周りに誰もいない。動くものは何もない。さっき

冷たくみつめた鳥が懐かしい。なんでもいいから息のするものが傍にいてほしかった。

動くものを見たかった・・。いま、私を包むのは灰色の空気と静寂、そして、

弱弱しい、バイクのエンジン音・・・・。


あ・・・・・・

動くものがある・・・・・。





雪が降ってきた!!


おいおい、マジか!?


寒いじゃないか!!心底泣きそうになった。これ以上ひどくならないことを祈る。




気づけば道は下りになっていた。私はエンジンを止めた。バイクの重みだけで

坂を下る。なんとか進んでいる。少しでもガソリンを節約しなければ。


しかしだ。無人の境で、雪の降る中、私はなにをしているのだろう。誰もいない

ところでエンジンのかかっていないバイクにまたがっている姿は、あまり美的では

ない。



ん?



家が見えた・・・。まさか、また廃村?もういいぞ、それより普通の村がほしい。

動くものが見える。雪ではない・・・・・。

おばあさんだった。ということはここは・・・、集落だ!人のいる集落であった。

よかった。もしかしたらスタンドがあるかもしれない。目を皿のようにして、村を

通り過ぎる。夕餉の支度だろう。家々から煙が上がっていた。いいなあ、私も

暖かいご飯が食べたい。食料を用意していないことにいまさらながらに、気づいた。


前方にこんな家が見えてきた。




やはり廃屋のようだ。今まで見てきた家に似ている。だが、もう中を見ようとか

探検しようなどとは思わない。この集落にスタンドはなさそうだ。だとすると早く、

下るのだ。そう、下るのだ・・・・。


下る??


写真をよくごらんいただきたい。道が上っているのがわかるだろうか??

血の気がひいた。集落は単なる通過点に過ぎない。ここから、また山道なのだ。

もう、どうでもよい。いじめるならいじめろ!わけのわからないことをつぶやいていた

私は最高にかっこ悪かった。

もう、これ以上むやみに山道にはいらないほうがよい。頭を冷やそう。もう一度

集落の中をさがそう。なにかあるかもしれない。私はバイクを転換させた。



夜の帳のおりかかったちいさな村は、家々に電気こそついているものの、その寂しさは

さっきの廃村と大差なかった。人の姿はもはやなかった。いや、人どころか小さな鳥すら

いなかった。みんな、自分の落ち着くべき場所で食事を取っているのだろう。鳥もだ。

私一人が馬鹿みたいに、そして目を血走らせてガソリンスタンドを探している。



葉のすっかり落ちた桜の樹が見えた。その横に明らかに民家とは違う建物が見えてきた。

しかも廃墟のようだ。


桜?

大き目の廃墟・・?


まさか、廃校では??一般の家庭に桜はあまり植えまい。やはり桜といえば学校である。

バイクを止めた。ここまで来たらあせってもしょうがない。一生に一度しかこられないであろう

この場所を楽しんでも良いはずだ。




                    


中をのぞいてみた。やはり学校のようだ。ドアに手をかける。

あいた!うそみたいだ。

だが、中へは入らなかった。廃校に飽きたのではない。どうも、勝手に中へ入る

ことへの罪悪感が強まっていたのだ。今、このHPをつくりながら、やはり中の写真も

とっておくべきだったと少し悔やんでいる。だが、私はその刹那の自分の心に従ったのだ。

その廃校は、集落の中にあった。だが、手入れをされている様子もない。この村の

子供たちはどこの学校に通っているのだろう?


私はバイクにまたがった。もう、猶予はない。のぼりだろうが下りだろうが進むのだ。



しばらく行くと、なんとしたことか、道が三つに分かれていた。地図を見るが、よくわか

らない。よくわからないと書くとかっこいいが、今、自分がどこにいるのかすら、まったく

わかっていないのだ。標識も何もないのだ。手がかりは地形である。が、そんなものを

見極める目を私は持っていない。



人は曲がり角で道に迷ったとき、左を選ぶという。その格言どおり、私は左を

選んだ。理由は二つ、一つは左の道が一番太かったこと、そしてもう一つは

少しだけ下っている気がしたからだ。



数百メートル進んだ。また、分かれ道である。やはり三つの曲がり角。

今度は一番、細い道を選んだ。なぜそうしたのか、いまでもわからない。ただ、

同じことを繰り返す恐怖感が、心のどこかにあったのかもしれない。



どうか、もうふもとに着きますように。心から祈った。私は無心論者だが、なんとなく

神様に祈りたくなってきた。


神様、どうかもう私を家に帰してください。神様、神様・・・。







おお、神よ!あなたは!





ひどいじゃないか!







道は急な角度を描いて、登りになっていたのだ!この道ではないのか?ただでさえ

乏しいガソリンを消費してやってきたのに!

迷っている暇はない!こうなれば選択肢は一つだ。戻れ!さっきの集落に戻って、

どこかの家の扉をたたいて、道を尋ねるのだ!それしかない。



今来た道を、もう、ここまで来たらやけくそでアクセル全開で走った。全開なのに音が

弱々しい。これは何を意味するのか、考えることすらいやだった。数百メートルでさっきの

三つ角につくはずだ。アクセル全開!




おかしい・・。おかしいぞ、これは。





いくら進んでも、三叉路に来ないのだ。もう、一キロは進んでいる。行き過ぎたか?

そんなはずはない。どこにも、曲がり角はなかった。見落とすはずはない・・・。

では、ここはどこだ?さっきの道はどこだ?さっきの集落はどこ!!??


完全に迷った。私はバイクを降りた。落ち着け!こんなときこそ地図を見るのだ。

なにか、ヒントがあるかもしれない。



おかしい、地図が読みにくい。なぜ?





・・・・・・・決まっている。日が落ちたのだ。夜が来たのだ。そして、私はそんな状況で

道に迷ったのだ。

一羽の野鳥がすぐ目の前に下りてきた。私を励ますため?もう、おそい・・・。

絶望的な気持ちで、私はその場にしゃがみこんだ。助けて・・。



                                     


       
 

  
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