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 ■読みきり■ 楽しい死のバーベキュー 
           
一話完結 のなぜか 後編

---------第七幕 死の・・・・・---------

なんで火がつかないのか?根本的なことを考えることにした。
「この炭いくらした・・?」誰かが言った。
「一キロ300円かな?普段はもっと高級な炭を使ってる?」
「これはやっぱ安物やろか?備長炭とか買えばよかったな?」
「備長炭をバーベキューに使うか?普通・・。」
「じゃあ、やっぱこのライターがアホなんかな?」
「いや、やっぱ・・・・・・・・・・・・・・、この気温やろ?」
見ると彼の持っている温度計付き時計の目盛りはすでに2度くらいであった。


「2度か・・・。バナナで釘が打てるよな。」
「そうなん?それってもっと氷点下ちゃうん?」
「いや、確かCMではそんなことを言ってたわ。間違いない。
2度の状況下ではバナナで釘が打てますって言ってた。うん、間違いない」
「そうかあ、お前物知りやなあ。となると、この状況では火はなかなかつかへんよな。」
「どうしよ・・・・・。」


しばらくの沈黙があった。



「やっぱり、あの作戦しかないな。

みんな・・・・・・・・、




俺に・・・・・・・・・・








命を預けてくれるか?」






「うん、いいよ。」何も考えてないやつが返事した。




少しだけ物を考えてるやつがこういった。
「命を預ける・・・??何をするねん?こわいなあ・・・。」
「まってろ・・・・・・!」彼の目は何かをじっと考えてる風でもあり・・・・・



何も考えていない風でもあった。




「じゃあ、行ってくるわ。」



どこへ・・・・・・?

「ちょっとそのタオル貸して。」
誰かのタオルを手に彼は旅立った・・・。

タオル・・・?


彼は夜の闇に消えていった。


-----------第八幕 なりふり構わず----------

「腹減った・・。マジでめまいしてきた。」誰かが言った。
たしかに家をでてからずいぶん時間がたっている。

「あ、これは・・・・・?!」誰かが発見した・・・。

それは焼肉と一緒に鉄板で焼こうと思っていた食パン・・・。

だがこの時の私たちには、この上もない食糧であった。


グジャ、グジャ、グジャ・・・・・・。
一人が食べ始めた。






「うまい



まじ?そんなにうまいのか?まったく焼いていないパンが?
しかもこの冷気で半分凍ったような状態だ。
だが餓えた私たちにはこの上もないご馳走に思えたのだ。


がまんできるかー。



グシャ、グシャ、グシャ・・・・・・・・・・。
ここまでくれば何でもいい、食べられるのなら。

みんな生のパンをかじりながら救世主を待ち続けた。
焼肉と一緒に食べるはずだったパンがなくなった頃、ようやく彼が現われた。





-----------第十幕 グッドアイディア----------




なぜか異臭がする・・・。



どこから?もちろん、暗闇の中から戻ってきた彼からだ。
だがそんなことはどうでもいい。

着火だ!焼肉だ!
「どうするん?なにをとってきたん?」誰かが尋ねた。
「これ。」彼はなぜかしずくがたれているタオルを前に出してきた。
「うわ、くさ!お前、まさかこの匂い・・・・・。」
彼は、我々の停めているバイクからあるものを持ってきたのだ。



そう、とても身近な油だけど、絶対に料理には使わないあの物質。









「うん、これは・・・・・・・・・・・・。
















やで。」






彼は・・・


バイクのガソリンタンクの中にタオルを突っ込み


ガソリンを浸してきたのだ。




そして今度はそれをかまどの中に突っ込もうというのである。








「あほお!そこまでするか!さすがにもうあきらめて帰ろうや。」
「うん、そうしよう・・・・・・・。」

こうして焼肉もガソリンもあきらめて帰り支度を始める・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・のが普通の人である。





しかしこの時の私たちはこんな会話をしていた。











「おお、いいねえ!」

「すっげえ!

やっとおいしい焼肉が

たべられるやんか!」









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、














完全に














アホである。















しかも投げ入れるとき、逃げる体勢すらとらず、

必死でみんなで火の中を覗き込んでいた






「入れるで。せーのー!



彼はちろちろとくすぶっている炭の中にガソリンたっぷりのタオルを投げ込んだ!




-----------第十一幕 ドラマ生まれる----------














一瞬にして火柱が上がった。
だが、私たちは逃げない。次の行動にでた。
「網を乗せろ!」
「おう!」
「肉を焼け!」みんな必死で自分の分の肉を置き始めた。
見る見るうちに肉の色が変わる!


やった、焼肉である!

キャベツも乗せるのだ!同じく一瞬で色が変わった。

「よおし、食べようぜ!」
「いただきます♪」
至福の瞬間であった。



----------第十二幕 ダイオキシン上等------------


パク♪



           モグモグ・・・・・!



           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・時間が止まった・・・・・・。








                 う






          これ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

            







                     マズイ






どころの話ではなく、ガソリンの味がする!

      
                      それどころか






            さっきの


ラードの味も混ざり合っている!
キャベツもガソリンと、ラードとそれにキャベツの青臭い匂いが混ざり合っている。


これってダイオキシンの味やで。」
「ほんまや。」
ダイオキシンは本来無味無臭なのだが、この時の私たちはそんなことを考えていた。


これはさすがにダメだ。
もう、炭に火が移った頃ではないか?一度タオルをどけてみた。
が、まったく炭には火が移っていないのだ。やはり気温が低すぎてどうにもならないのだ。
どうしようか。このままではまずくてとても食べられない。
「そうか、こうしよう。ラードの味はどうにもいかんわ。まだ、この方がマシやで。」
その行動もまた・・・・・・・・・・・異常だった。


--------第十三幕   もはや--------




彼は生肉を箸でつまむと、傍らのタオルから上がる火柱の中に突っ込んだ。
「熱!でも、がまん!」
しばらくたった後、肉をおもむろに口へ運んだ。



「おお!これはすごい!お前、頭いい!」



「ほんまや!まるでしゃぶしゃぶやん。


お湯の中に突っ込まずガソリン火の中につっこむ


ガソリンしゃぶしゃぶ!





またみんながいっせいに動き出した。
たしかにこれならガソリンの匂いはするけど、ラードの味はしない。これならまだ食べられる。
我々の味覚も地に落ちたものではある。
しかし3時間も4時間も火起こしに必死になっている身には、味などどうでも良かった。

わずか10分のうちに完食してしまった。キャベツも火の中であぶって食べた。

「おつかれ・・・。」食べ終わったとき誰かが言った。
「今、何時?」
「11時半くらい・・・。帰ったら日付変わるなあ・・・。」
「ごめんな。こんな寒いときにバーベキューを提案して。」意外な言葉が出た。

「あほお、めっちゃおもろかったやんけ。


俺ら、今日は誰にもできへんすごい体験したんやで。」


「ほんまやで、最後に写真とって後片付けして帰ろうや。」
この時の私たちは、これほどおめでたいく、無知で、そしてアホな人間だったのだ。
だが、なぜだろう、一度もお互いを責め合ったことはない。

「じゃあ、いこか。」
私たちは帰路についた。冷たい風にやられ手の感覚がなくなった頃、家にたどり着いた。


----------第十四幕 後日談--------------


バーベキューの話はこれで終わりである。つまらない内容だったかもしれない。



私はこれより前も、これより後も数限りないバーベキューを経験してきた。そのどれもが友人たちとの素敵な思い出だ。
すべてのバーベキューの中で今回のガソリンしゃぶしゃぶは、群を抜いてまずく、圧倒的にアホらしかった。


でも、だ。


今でもそのときのことを思うと胸が熱くなる。ただの焼き肉だ。
だのに心に小さな陽だまりを作ってくれるのだ。そして何かを教えてくれているのだ。
仲間内で久しぶりに集まったときも、他の成功した焼肉の話は出ない。いつも
ではないが、それでもやはりあのガソリン焼きの話は出る。


そして、
みんな遠くを見つめる目になる。



本当の思い出とは、

「素敵」とか

「立派」とか

「美味」の中だけに存在するのでではなく、





ガソリンのにおいのする、まずいまずいキャベツの中にこそ、





そして馬鹿馬鹿しい失敗の中にこそ、






静かな光をもっているのだと、







少し、私はおもう。

              


     

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