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天空の街へ ペルーひとり旅 



     最終回    いつか再会を 


車のスピードは弱まることなく、周囲の景色を次々と後ろに追いやっている。
これまでの俺の旅もこの景色のようにものすごいスピードで過ぎて行ったなあ・・・。

などと感傷に浸ってる場合ではなかった。この道、明らかに見覚えがない。
ホテルとちがう方向に向かっているのは明らかだ。


いよいよバナナを使うときが来た。
「おっさん、食べな。」俺は日本語で言いながらバナナを運転手に差し出した。
「何だって?」
「あげるよ、一緒に食おうぜ。」怪しまれないように、俺も一本その場で食べた。
「シー。」一瞬迷ったようだが運転手はバナナを受け取り食べ始めた。

数分沈黙が続いたが、急に車が角を曲がった。また数分がたった。
あ、この通りなら見覚えがある。普通に走ったのと比べて倍の時間をかけてようやく宿のある路地へ到着した。
おそらくは運転手は途中で思いなおしてくれたのだろう。そう思いたかった。
私は相場の倍にあたるけど、乗り込むときに了承した20ソルを払い車を降りた。
ドライバーは無言で金を受け取るとまた電話で誰かと話し始めた。果たしてあれは陰謀組織にかけているのだろうか。
私は振り返らず宿に戻った。



見覚えのあるドアを開け、見覚えのある部屋に入った。
見覚えのある猫がソファの上で眠っていた。その現実的な姿を見たとき、どっと汗が噴き出してきた。
一体俺はどうなっていたのだろう。あの時とっさにバナナを出して運転手の機嫌をとってみた。
人間満腹になれば心にゆとりが出るものだ。とりあえずはそれが功を奏したと思いたい。

すでに日付は変わっていた。すなわち俺のペルー滞在、実質的な最終日。


朝。
日本の皆さんも、ペルーの皆さんもおはようございます。
最後の日は街をゆっくりと歩くことにしている。
二度と訪れることができない場所だからこそ、確実に私の目と心にその姿をとどめたいのだ。

もうなれた心持ちでタクシーをひろった。金輪際不愉快な思いはしたくないと思い乗った乗り物なのに、しかも最初に「8ソル」で市街地まで行くと交渉していたのに、降り際に運転手が怒鳴り始めた。
俺のカバンを指差し「15ソル出せ」と叫んでいるようだ。

カバン代を別に取ろうというのだろう、ふざけるな。

小さなショルダー一つで料金を倍にされてはたまらない。
「いやあ、今日は実にいい天気ですね〜。」最後まで日本語で話し続け、言葉をわからないフリをし、
最初の8ソルだけを運転席におくと、車から離れた。





このセントロはリマの旧市街地である。犯罪が多発し、一人では歩かないほうがいいとガイドブックに書いてある場所だ。ペルーに着いた当初なら怖がって足を踏み入れていなかっただろう。でももうそんなウブではない。
最終日だ。命さえあれば後悔はない。
そう思う俺の前にこんな物々しい人たちが現れた。なんで機関銃を民間人のいるところで出しているのだ?

後ろの建物は大統領官邸だったのだ。
このアルマス広場にいればまだ警官の姿が見えて安心だ。

クスコほど美しいものではなかったが、ペルーのどの都市にもあるアルマス広場での時間を心とカメラに刻み込んだ。
  
                      ↑ヒヨコをちゃんと連れている!

何も考えず、ただ路地裏を歩いた。人通りがへることはなく、どこへ行っても地元の人でごった返していた。
観光地にはない猥雑さが今は心地よく私の琴線を揺らしている。
マチュピチュやナスカの地上絵といった観光地のスーパースターに出会ったときとはまたちがった高揚感を得ていた。
たとえば、こんな汚れた路地裏でも私の心は高鳴っているのだ。
        


突然、一人の子どもが私のところに駆け寄ってきて何かを言おうとした。
しばらく待ってみたが、その子はどこかへいってしまった。
いったい私に何を言おうとしたのだろう。今でも考えてしまう。

何が起きるかわからない路地裏。
やっぱりこのペルーという国の、リマという街の、小さな裏通りがたまらなく好きになっていた。





この国は路地裏を歩いているのに、不意に目の前に巨大な教会が現れることがあり、そのたびに面食らってしまう。
でもこんな素敵な建物が随所にあるというのが、ペルーの魅力なのだろう。
治安の悪さを忘れる光景がそこにあった。
      
人々が何をするわけでもなく、教会の庭に静かにたたずんでいた。
鳩たちのほうがまだ意味ある動きをしている気がする。



この旅で数多くの教会を見てきたが、一番すきなのがこの大統領府のすぐそばにあった教会である。
中に入ると礼拝をやっていた。そうか、今日は日曜日か。
賛美歌が響いている。実に美しい、でもなぜか悲しさがこみ上げてきた。
この歌は俺に何かを告げている気がした。


   
この金色に光る大聖堂の中で、美しい賛美歌が響いていた。


美しい金色をした教会をでた。
ふと向こうに目をやるともっと輝いているものがあった。
西の空である。

                    

美しいけど悲しい色だった。


ああ・・・、


一日が終わる!



頼む!夕日よ、沈むな!
         
もちろんすぐに次の日がやってきた。



朝。
荷造りをし手射て改めて気づいた。カバンが一つ足りない。到着早々空港で盗まれたからだ。
あれから何日たったのだろう。
そんな混乱した心の俺の荷物を、猫ちゃんがかじって引き止めるから、余計に心が乱される。ペルーについてからずっとこのミケちゃんに癒されてきた。
ありがとう。
小さな猫には癒されたけど、








この大きな像に、
初日からパンチを食らった。







パンチを食らったといえば、一番ストレスだったのがこのときだ。

オリャンタイタンボの街で深夜まで列車を待った。
あのときの寂しさと寒さは俺の旅人生に残るものだった。







旅人生にのこる最高所はここだ。

クスコに着くとこの景色にまたパンチを食らわされた。
標高3500メートルの神に最も近い街だった。








神は細部に宿りたもうというが、
アルマス広場ではこの光景に心を癒された。
この子たちは今もこうして物売りを続けているのだろう。





 
今、どうしているのか気になるかといえば、彼だ。

同じアルマス広場で友人を作ることができた。看護の勉強をしているという彼は、いまどうしているのだろう。
もう二度と出会えないだろうからこそ、余計に気になるのだ。








もう一度出会いたいのは遙かなる山である。

こんな美しい光景が俺は好きだ。
アンデス山脈に出会えるのは今度はいつのことか。











「美しい」とかいった言葉では、もはや表現できない存在がそこにはあった。

マチュピチュの荘厳さに打ちのめされたのは何日前のことだったろう。













ナスカの地上絵なんて、一昨日見たところなのに、もう悠久の彼方の存在となっている。









でも、なにより俺の心に残っているのは、クスコでのあの坂の途中に建っていた宿でのひと時なのだ。
初めて出会った人、しかし価値観を共にする人との一夜が今も消しえぬ財産なのだ。
皆さんとの出会いが、まさに悠久に心に残ることを何より願う。

   

数日前にお別れしたMさんは今頃南米のどこかをさまよっているのだろう。
道中三度も出会いと別れを繰り返したのは、ピースケの旅人生で唯一だ。
三度もお会いできたおかげでMさんには教わることが多かった。無論Mさんのようにそこのない知識を得ることができなくても、少しでも努力をしたい。
KさんとAさんは今頃マチュピチュだろうか。Tさんもマチュピチュに行くって言ってたな。
夜中にみんなでカップめんを作ったこと、忘れない、決して。

皆さん、どうぞ良い旅を。
俺も、俺も、みんなみたいに長い旅をしたかった。
僕は先に帰ります。



追憶にふけっていたが、いよいよお別れのときが来た。荷造りはとっくに終わっていた。

みんなが俺を見送ってくれている。
猫ちゃんがついてこようとしたから、俺はあわてて椅子に座らせた。
犬君はソファに座ったままで俺を見つめている。

みんな、バイバイ。





空港へ向かう車に乗りながら、

なぜか昼間の光景が浮かんできた。

飛び交う鳥たちはもうすぐ帰国する俺を見送ってくれていたのだろう。そう思うことにした。
    




そして、

鳩たちに包まれた教会の、

この賛美歌がペルーを去り行く俺への惜別の曲に聞こえた。

           

上の動画をもってこの旅の記録の区切りとする。


全然帰りたくないし、めちゃくちゃ淋しいけど、その心を隠したままこの旅を終わる。
なぜかまだ終わったとは認めたくない。旅先で出会った仲間といつか再会できる気がするからだ。
今も私の心には、賛美歌が琴線を揺るがす音色で鳴り響いている。


9ヶ月間の連載、これで終わります。
間隔をあけながら書いたので、お待たせしまくって申し訳ありませんでした。
長い間お読みいただきありがとうございました。

                                 天空の街へ ペルー一人旅       終わり


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