天空の街へ ペルーひとり旅
第28回 陰謀の夜
「ひゃはっは〜!」
「★○▼☆〜!!」
「ぎゃ〜はははは」
これは全部運転手が一人で叫んでいる声である。陽気なのか狂気なのかわからない。
恐る恐る車に乗り込んだが、後ろの座席に座った私に向かって手招きをしてくる。
助手席に座れといってるようだ。なんで?いきなりナイフが出てきたりするんじゃないだろうか?
言葉がわからないふりをして、後ろ座席に居座ろうとした。
が、運転手がドアを開けて俺のカバンを持ち助手席に乗せてしまった!うぎゃお!
しょうがなく助手席に移動する。もう旅の予定も終わりだ。見残したものもない。
運転手はまた
「ひゃはっは〜!」
「★○▼☆〜!!」
「ぎゃ〜はははは」
と笑い出した。しかも俺に同意を求めてくる。だからわかんないって。
不意にどこかの建物の前に停まった。
うわ、また屈強な男たちがぱらぱらっと降りてくるんじゃないだろうな??
運転手が建物に向かって何かを叫んだ。
中から・・・・・・・・・・・、
二人の、
おねいさんが出てきた!しかも美しかった。
どうしよう、このおねいさんに乱暴なことされたら〜
彼女たちは後ろの座席に座った。どうやらこの運転手、本来はこのおねいさんたちを送迎するのが目的だったが、
小遣い稼ぎでついでに俺を乗せたみたいだ。
おねいさんはすこぶる無口だった。どこから来たのか訪ねるとロンドンとのことだった。
それ以外の会話はなく、ナスカの街に降り立った。
行きと同じバスに乗り、数時間の後リマの街に戻った。
時刻はすでに23時を越えていた。朝4時に出て一泊もせず再び戻ってきた。まさに弾丸である。
さてと、ここからホテルに戻るのだが
・・・タクシーがいない。
ようやく一台が私の前に停まった。基本的に向こうから声をかけてくるタクシーは危険なのだが、選んでいる場合ではない。
値段を聞くと「20ソル」という。アホか!相場の倍じゃないか。いくら深夜といっても高すぎる。
俺はちがうタクシーを捜すために歩いた。
また一台が停まった。今度は「30ソル」。ドアホ!おとといきやがれ。
歩いた。
さらに一台が停まった。もしかしたら俺って狙われてるんだろうか?
しかも「40ソルだ、それ以下には負けられない。」げぇ〜!
どんどん値段が上がっている。これは組織的な陰謀に違いない。
またまたまたまた停まった。しかも、最初に断った車ではないか。
中からいかにも狡猾な顔をした運転手がにやりと笑った。
「へい!20ソルで乗るだろ?チキンな坊や。」たぶんこういわれた気がする。
もういいや、乗っちゃえ!
運転手が助手席のドアを開けようとしたので、それより先に後ろのドアを開けて乗り込んだ。
20ソルを払うあきらめはできた。後は変なところに連れて行かれないようにしないと。
俺は携帯を出して電話をした。
「ハロー!もうすぐ帰りますよ。はい、タクシーです。そのタクシーはこんな色と形でいまこの辺を走ってます。
運転手は50歳くらいで、茶色の服を着てますね。」
延々と英語でタクシーの様子をレポートした。
もちろん電話をかけているフリをしているだけだ。とっさに思いついた方法である。
これが功を奏しているかどうかはわからないが、運転手は俺の電話を聞いてるようだ。
なんとか大丈夫だ。
すると「・・・・・・・・、・・・・・・・・。」
今度は運転手が電話をかけ始めたではないか。しかも俺の顔をバックミラー越しにちらちら見ながら。
やばい!陰謀組織に電話をしているに違いない。
このままだとチキン坊やといわれた俺は、本当にチキンにされるかもしれない。
心臓が早鐘を打ち始めた。
日本から遠くはなれたところで、俺は一人で何をしてるんだろう。
深夜にタクシーに乗っても、めちゃくちゃ安全な日本に帰りたくなった。
明日の夜には帰られるのだが、それ以前に俺は明日の夜を迎えられるのだろうか。
車のスピードが上がった気がした。
ついでに俺の心拍数も間違いなく上がっている。
なにか武器になるものはないか?カバンの中を見た。
朝、宿のおばちゃんにもらったバナナが二本入ってるだけだった。
これをつかうしかない。
つづく
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