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天空の街へ ペルーひとり旅 



     第21回   旅人たちの夜  


気がつけばすでに旅は折返し地点を過ぎていた。
数えてしまうと余計にその数字がこびりついて嫌なのだが、
結局は残り5日しかないということをわざわざ確認してしまっている。


そんな余計な想念を抱えつつ、美しきクスコの街の裏の裏にある小さな安宿の扉をたたいた。
下手な英語や、ど下手くそなスペイン語を話し続けて、もう少しこれを続けると口が腐ることになる。
したがって今日はこの日本人が経営する宿に泊まることにした。


こういう宿に泊まるとき、運がよければ実に楽しい時間を得ることができる。
だが、たまに大ハズレもある。
長期にその宿に居座り、他の客に指示をし喝采を振るう人と遭遇したときなどだ。
会話の一切がその人やその友人を中心に回ったり、
はじめて訪れたひとり旅の人を完全にのけ者にしたりすることも、ない話ではない。

わざわざそんな集団に飛び込むこともないのだが、
宿にチェックインした後ではそこから逃げることもできないのだ。


今日、この扉の向こうはどうなってるのだろうか。


がちゃ。



あ”ー!私は驚いた。



中には数人の日本人客がいた。
海外を一人で旅をし緊張感を持ち続けてすごしていると、いろんなことに敏感になる。
私はその人たちに出会って、瞬時に親しみを感じた。
ポピュラーに旅を続けている人たちのようだったからだ。


安心した。


そして驚いた。


「あ、どうも。」
もう永久にあえないだろうと思いつつお別れをしたMさんがそこにいた。
「いやあ、昨夜この街に戻ってここに泊まってました。」
三度の出会いである。



Kさんは私と同じ大阪の人。
Aさんは関東の人。
お2人とも数ヶ月旅を続けておられるらしい。うらやましかった。
また、福井県のTさんも長期旅行の最中だそうだ。
みなさん、自分の足と言葉で旅を続けていらっしゃった。
率直に賛嘆の意を覚えた。


わずか一週間ほどの旅の中で私は数え切れないくらい、迷い、へこみ、帰りたいと思うこともあった。
だが、皆さんは何週間も何ヶ月も旅を続けておられるのだ。
帰りたいと思うことはないのですかと聞いたら、
Aさんは「時々どこでもドアでちょっとだけ日本に和食を食いにかえって、
すぐに海外にまた出かけたいなとは思いますけどね」とおっしゃっていた。
なんという強さだろう。ここに旅人がいた。




日本各地から来ているため、いつしか話はそれぞれのふるさとに移っていった。
福井から来ているTさんに聞かれた。「北陸って何県をさすかわかりますか。」
皆「福井、石川、富山、新潟」と答えたが、新潟は北陸ではないそうだ。知らなかった俺。


いつの間にか日が落ち、クスコの街に夜が訪れた。






部屋の電気をつけて話はさらに進んだ。





肉じゃがの肉は何を入れるかとか。
関西のKさんと私は迷わず牛肉だが、東北のMさんと北陸のTさん関東のAさんは豚肉を入れるそうだ。
じゃあ、おにぎりの海苔は何を使うか。これも東西で分断された。
東は焼き海苔で、西は味付け海苔だった。
ここでAさんが鋭いことを言った。
「おにぎりは手がべたつかないために焼き海苔を巻いているはず。味付け海苔ならその意をなさない。」
南米まで来て何の話かとも思うが、これも楽しきかな旅の一ページである。


旅の話にもなった。私以外の4人の方は海外の旅のベテランである。
いろいろな国について教えてもらった。
Tさんは話をしながら持参したパソコンに写真をダウンロードしておられた。




この宿は坂の途中に建っており、部屋が急角度で配置されている。
談話室も3畳ほどの広さしかない。
でも、5人の旅人が語り合うためにはこの狭さが心地よく、
逆に幸せが密度濃くあふれる気がした。

窓からはクスコの夜景が見えた。
日本の数十年前のものにみえる、白熱灯の黄色い光である。
それはほとんどオレンジ色をしている。
        
こんなオレンジ色の夜景ははじめてである。

この光たちは優しい色で私たちを照らし、会ったばかりの旅人の語りを支えてくれていた。
そんな旅人たちに別れはすぐにやってきた。





「俺、じゃあ、出発します。」Mさんが言った。
このあとプーノに向かい、さらに次の国にいかれるそうだ。
この夏、チリ、アルゼンチンなどを回られる予定だという。

せっかくなので、お別れの前にみんなで写真をとることにした。
旅人は写真を撮るときに、何かと狙ってしまう傾向にあるように思う。
普通に、みんなが並んではいチーズとかそんなのでは満足しないのだ。

なんといっても夜景がすばらしい。これをバックに何とか撮りたい。
みんなベランダに出た。


カメラを必死でセッティングするAさん。テーブルの上に椅子を乗っけてその上にカメラをのせている。




反対側でそれを見つめる、左からMさん、Kさん、Tさん。




一夜限りの旅人の集いよ。
時間は短くとも、今も私の心の中では数年分の広がりと深みを持って生きている。

左からKさん、Mさん、ピースケ、Tさん、Aさん。


部屋に入ってからもまだまだ撮る。
旅人は写真一枚にも魂をこめる。
                              J  A  P  A  N

と体で表しているつもり、だ。



最後にお互いの連絡先を交換し合った。


「どうせなら、みんなで食事をしてそのあとMさんとお別れしましょう」Kさんがいった。
もちろん賛成に決まっている。僕らはみんなでおこなう最初で最後の夜の散歩を始めた。

          
                                     夜の街につづく


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