天空の街へ ペルーひとり旅
第19回 謎の車
ガタ
ガタ
ガタ
ガタ!
ガタ
ガタ
ガタ
ガタ!
俺はいま知らない人の運転する車に乗って、ペルーのクスコへ向かっている。
道は舗装されているが、凹凸だらけである。
だからさっきから、ガタガタガタガタ!と疲れた体と脳みそを揺さぶってきている。
たぶん、この車はクスコへ向かってるはずだ。
でももしかしたらぜんぜんちがう場所へ向かっていても、俺にはまったくわからない。
よほど俺が不安そうな顔をしていたに違いない。
ギューギューに詰め込まれた車の中でおびえる俺に向かって、すぐ前に座っている青年が言った。
「前もこの車に乗ったけど、8ソルでいけましたよ。」かなりたどたどしい英語だったがこういってくれたように思う。
俺のたどたどしい耳が聞き取っていた。
車はいきなり停まった。
おお、もうクスコか?それにしては早い。30分ほどしかたっていない。
大通りからはずれた路地裏である。
「全員降りろ!」運転手が叫んだ。
え?どういう意味。
運転手はこう叫び続ける。
「早く車から降りるんだ!」
ドク
ドク
ドク
ドク!
心臓が早鐘を打ち始めた。
とっさに周囲を見渡した。隠れるような物陰がない。
車の乗客はみんな現地人のようだ。外国人は俺一人。
もし、狙われるなら・・・・・俺だろう。
周囲の乗客にあわせて降りた。みんな表情に変わりはない。
「たぶん・・・・・・・・・・・ですよ。」さっきの青年がなにか言ったがどうしても聞き取れなかった。
でも彼の声の響きには、私を安心させようとしている感じがあった。
思えばこの旅はトラブル続きだった。空港でバッグを盗まれ、深夜の列車しか取れず、
深夜に駅に着いたら宿がなかった。
二度と南米には来るまい。いや、もう海外はこない。そう誓った。
むしろ今の俺の状況、日本に無事に戻れるかどうか。
「みんなあの車に乗れ!」数メートルはなれたところに、今乗ってきたものの半分近い小さな車があった。
これに12人(とっさに人数を数えた)を乗せてどうしようというのだろう。
のどがからからに渇いてる。唯一俺に親切なさっきの青年の後に続いて車に乗った。
ドアのすぐそばに陣取ろうと思ったが、でかいおっさんがその場所を奪い取った。
また車が動き出す。
どこを走っているのかわからない。謎の車はさっき以上にガタガタと音をたてて進んでいる。
ギギー!
「降りろ!」また運転手が言った。
「金を出せ!」
やっぱりこれが目的だったのだ。金目当てだったのだ。全財産を渡さねばひどい目に遭わされる。
それにしてもみんながめちゃくちゃ素直に金を払っている。
「何をしている、日本人8ソルだよ!」
え?8ソル?全財産ではないの、ね。この8ソルは最初に交渉したときの金額だった。
さっきの車の乗り換えはなんだったんだろう?
これが乗ってきた小さな車。
12人が詰め込まれた。
8ソルを渡し自由の見になった俺は周囲をみわたした。
ここ、
完全に、
あの
クスコじゃん。
ちゃんと戻れていた。数日前とクスコの街は変わりなかった。当たり前だ。数百年もこの街は変わらないのだ。
道中に起きたことと、自分のおかれている状況が整理できないまま、私は歩き始めた。
一昨日に見たなつかしい山並みと町並みが俺を待ってくれていた。
自分の単純さをこんなときに余計に感じる。私は心に余裕が出てきたことで、この街を歩きまわりたくなっていた。
どこまでいっても、人の波と美しい石畳の道が続く。
このクスコの街は、山に囲まれた狭小な土地であり、迷ってしまったとしてもあまりとんでもないところには着かない。
その安心感が私の足を速めさせた。
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