天空の街へ　ペルーひとり旅　第６回

天空の街へ　ペルーひとり旅　

　　　　　第６回　　　クスコよ　美しき石畳の街よ　　

クスコの町で最も気をつけなければいけないのは、ぼったくりでもなければ、客引きでもなく、
ましてや野良犬でもない。
高山病である。

登山などとちがって一気に高所についてしまうため、余計にかかりやすい。
頭痛、倦怠感、吐き気がおきる。到着日に元気に動いた人や寝不足の人ほどかかりやすいらしい。

寝不足って、思いっきり当てはまってしまう。日本をたって60時間がたつが、睡眠の合計時間は4時間である。
かなりやばい。
無理せずゆっくり落ち着いて行動しよう。

と思ったのだが、落ち着いて行動できるはずがなかった。
この景色、クスコの街よ！
こんなに美しい光景を私はかつて見たことがない。

　　　　

クスコの中心地、アルマス広場から見上げた光景である。
ただでさえ高所に位置するこの街のさらに山の上まで家々がみえる。

私はゲストハウスに荷物を預かってもらうため（今日中に75キロはなれたオリャンタイタンボへ向かわなければいけない）坂を上る。
この街では所得の高い人ほど低所に住み、そうでない人は高所に住居を構える。
眺めの良い高所に豪邸が並ぶ日本とは逆だ。要は酸素の薄いところに住むのが庶民なのである。
景色のよしあしより、酸素の濃度がこの街では重要なのだ。
したがってピースケが泊まるべき安宿は高所にある。
　
目の前にある階段、これを上るのだ。
　　　
でも、酸素の濃度など気にならなかった。
上ればまた景色が変わり、振り返れば美しい街並みが見える。

　　
一段上るたびに振り返ってしまう。今、ここで振り返らなければずっと後悔するだろう。
一段一段のすべての景色の変化を見逃したくなかったのだ。

　　
だからこうやって写真も撮ってしまう。

この階段はいつからこうしているのだろう。コンクリートは使われておらず、丸みを帯びた石畳で形作られていた。
その素朴さがいっそうこの街をレトロに、そして温かく見せていた。
今のところ高山病の兆しはない。まだまだ上り続けた。
　　　　　　　
また振り返って写真を撮ってしまった。

階段の途中で横道を曲がる。そこに3日後に戻ってきて泊めていただくゲストハウスがあった。
スペイン語をわからないピースケと、日本語がわからない宿の従業員が、お互いに適当な英語でやり取りをして、ようやく荷物を預かってもらえた。

まだ午前中だ。時間はたっぷりある。この美しき街を歩く。

　　　　
さっき上ってきた階段とは少し趣のちがう、しかしやはり石畳でできた坂道をくだる。
こうして文字で書くと一行だが、実はゆっくりと進んでいた。目に映るものがすばらしすぎるから。
でもこの街で急ぐことは似合わない。ゆっくり歩けばこんな素敵な出会いもある。
　　　　　　　　　
犬の顔は日本と同じだった。

再びアルマス広場にやってきた。こんなに美しい街を私は知らない。
　　　　　　　
どの建物をみても歴史と文化と人の息吹を感じる。
特にすきなのがこの「ラ・コンパーニア・デ･ヘスス教会」である。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
1650年の地震以後再建されたものだが、それでも300年以上前の建造物だ。
二つの鐘楼がずっとこの街を見下ろし人々の心の支えとなってきたのだろう。

実を左に向けると「カテドラル」がやはり重厚な存在感で街を見下ろしている。
　　　　　　　
このときは街の美しさに目を奪われていて実行しなかったのだが、それぞれ２０ソルほどで中に入れたのだ。
残念である。

カテドラルの後ろに目をやると、家並みの向こうの山頂にキリスト像がみえた。
　　

アルマス広場にいる人々が、街の人たちなのか観光客なのかはわからない。
みんな思い思いのスタイルで景色に溶け込んでいた。
　　　　　　　　　　
そういえばこの街には物売りがいない。いるのかもしれないが、商売をしている風がないのだ。
いるのはのんびり座るおじいちゃん、おばあちゃん、きれいなおねいさん、そして子どもたち。
　　

歩いているうちにいつしか路地裏についていた。
そこにも人々の営みが存在してた。

広場とはちがって露天が立ち並んでいた。

あ、そういえば酸素の薄いのが気にならない。目と心を街に奪われていて、高山である事を忘れていた。
でも、お腹の中身が薄いのは気になりだした。食堂に入ろう。

そのとき信じられない光景が！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく