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天空の街へ ペルーひとり旅 



     第4回  路上   


今僕はリマ市内のミラ・フローレンスという地区にいる。新市街地だそうだ。なるほど歩く人も新しい感じがする。
巨大なショッピングエリアの中にはいった。ここはいかにも観光地的だが、そこにいる南米の人たちは自由な時間をすごしている。
        
子どもたちはショッピングエリアの中でスケボーに興じていた。日本なら迷惑行為として排除されるのかもしれないが、ここでは風景の中に溶け込んでいる。この感じ、いいなあ。



あてもなく歩き続けているうちに、今度は前方に市場のようなものが見えてきた。
大規模なものではなく、いくつかの露店が集合している。                                                 
肩を寄せ合うように並ぶ店にはいくつものペルーみやげが誰かに買われるのを待っていた。
小さなアルパカのぬいぐるみに目がいった。
かわいらしいけど、今買うと邪魔になりそうだ。やめようと思ったとき中から女の子が出てきた。
20歳くらいだろうか。英語を話せるようなので値段交渉をした。

「このぬいぐるみ、とてもいいですよ。買ってください。」
「いくら?」
「5ソルよ。」
「高いなあ。」
「そうかしら?普通よ。」
「少しだけ負けて。」
「いいわ、じゃあ4ソルにする。」

こんな感じのやり取りだったように思う。ところどころスペイン語が特に数字部分に混ざるから、不正確なやり取りとなったことだろう。
あまりにあっさりと負けてくれたので拍子ぬけした。これまでのいろんな国の市場ではほんの少し負けてもらうのにも、かなりの時間を要していたのだ。
僕は結局アルパカのぬいぐるみを4ソルに値切って買った。150円を140円に値切ったくらいだろう。
あとで聞いたのだが、女の子が僕に提示した5ソルでも十分に良心的値段だそうだ。それを僕は値切るのが当たり前でございと、無理な要求をしてしまったようだ。女の子に悪いことをした。
ぼったくられた時以上の後味の悪さを感じてしまった。


偏見といえば偏見なのだが、途上国の物売りは外国人をみると必ずぼったくってくると思い込んでいた。
だからこちらも値切らなければいけないと思い込んでいた。
だが、ペルーの人たちは僕から何かを奪い取ろうともせず、ただ静かにものを売っているだけだったのだ。
僕はそれだけで、ペルーという国がたまらなく好きになった。
そして旅慣れをしてきたと調子に乗っている自分を嫌いになった。



どの店からも、呼び込みの声は聴こえない。昼寝をしている店員もいる。
できればこの柔らかな空気の一部になりたいと思った。
なにより旅の初日にして、俺の心はもうペルーに溶かされそうになっている。



すばらしいときはすぐに終わりをつげに来る。時計を見るまでもなく、日が傾き始めた。
そういえば今俺が見ている太陽は日本で見るのと同じはずなのに、美しく感じる。
その日本より美しい太陽を背に、俺はまたタクシーを拾う努力をした。
ミラ・フローレンスから宿のある地区まで10ソル前後が普通であり、僕はまさにこの値段で交渉した。
日本円に換算して約300円である。ペルーのタクシーは乗る前に値段交渉がいるのだ。

降りるとき、財布の中に20ソル札しかなかった。運転手はつり銭の1ソル札をばらばらっと僕の手のひらに乗せるといってしまった。

数えると7枚しかなかった。

結局13ソルで乗ったことになってしまった。ペルーに来てはじめてのぼったくりである。
これはかなり悪質だ。どうしても今でも運転手の顔が思い出せない。



宿で一休憩をし、飼われている猫を一なですると、
                               
晩御飯を食べに再び街へ出ることにした。


出かけるときに宿のおばちゃんに、夜間はくれぐれもカメラを出さないように言われた。いきなり強盗にあったりすることはまれだが、この辺りの人は一生をカメラなどを持たずに生きる人が大半であり、何かの出来心を誘発する可能性はある。もう一つ、細すぎる路地裏も危険だそうだ。

私はこの二つの忠告を胸に歩き始めた。二つさえ守っていれば大丈夫なのだ。

 

      

大通りから離れているため、人通りの少ない道だった。

こうして遠く離れた国の知らない街の知らない道を歩く、それだけで生きていることが実感できた。

一昨日まで嫌々働き、嫌々時間をすごしていたのに、今は体からあふれる喜びを感じている。

幸せだ。




知らない街の夜の道は危ないけど、さっきの二つの戒めを守っていれば、そう大丈夫。







GURU・・・・・GURURURURURU・・・・・





暗闇から何かが聞こえる。光るものがある。

さっと血の気が引き、自分が何に狙われているかを即座に察知した。

海外でもっとも恐ろしい存在。誇張ではない。パスポートをとられたり、ぼったくられることよりもこの方が恐ろしい。



野良犬である。




犬が苦手とかそんな精神的な話ではない。海外では狂犬病こそが最大の恐怖なのだ。

一度発症してしまうと致死率が10割なのだから。

などと解説している場合ではない。俺の背後にその犬がいる。

脂汗が出てきた。

すぐ向こうの家の中から子どもの叫び声が聴こえてきた。私に向かって言っている事がすぐにわかった。

逃げろとでも言ってるのだろうか?

言われなくてもそうする。犬に対しては背中を向けて逃げるのはタブーなのだが、

そんな理論を思い出す以前に本能的に私は走り出した。




犬はどうしたか。もちろん犬は犬の本能に従い私を追いかけ始めた!

マジ怖い!



バウバウ!

おお、南米の犬は、確かにバウバウと鳴いている・・・、

などと、これも理論を思い出している場合ではない!





ふいに、そのバウバウが聴こえなくなった。

恐る恐る振り向くと、犬は道の生ごみをあさり始めた。

今のうちだ。そうっとその場を離れる。犬は俺のことは忘れて生ごみを食っている。

生ごみのおかげですくわれた。

ありがとう!生ごみ、いや、



生ごみ様!




生ごみ様に救われた俺は、また夜の街を歩き始めた。


                                                      



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