第27回 おねいさんのたたり





痛い!おねいさん!痛い!

俺は叫び声を上げていた。これは夜中の出来事である。お話は数時間前に戻る。



数時間前の私は、まだ道の中にいた。
もうほとんど前が見えなかった。
かろうじて水平線の下にいると思われる陽の残り火により海が白み、
そのおこぼれに預かった私が自分の進む道を見ていた。
左からの音におびえながら。



左の光景。これは写真を思いっきり補正している。そうでなければ真っ暗なのだ。
本来なら安らぎとなる海の音が、日が暮れた今はつかれきった私を威嚇する兇器の表情を見せていた。。

執拗なアップダウンを数えることはいつの間にかやめていた。
それどころでなくなっていたのだ。


ようやく右側に民家の明かりが見えてきた。

不意に目の前を灰色の塊が横切った。


思わずシャッターを切った。
あとで補正してその正体がわかった。


キタキツネ君は私の姿など見えなかったかのように、どこかの民家の庭に入り込んでいった。




急に息苦しくなった。
気のせいとかではない、恐れていた気管支喘息がやってきたときの感覚であった。
家に気管支拡張剤は置いてきた。スプレーだから飛行機には持ち込めないのだ。
すぐにチャリを焦げなくなるわけではないが、かなりあせる。

本来は岬の突端辺りで野宿するつもりだったが、今の私には危険である。

いつしか町の中に入り、なんということだろう、目の前にドミトリーの看板を掲げた家が見えた。
直接ドアをたたけばいいのだが、内気なピースケちゃんは看板にかけてあった電話番号にかけた。

「あの急なんですが一名、今晩泊まれますか?」
「相部屋のドミトリーなら空いてますよ。」
「じゃ、あとで伺います。」


数分後のインターバルを置いて、私はさりげなーくその宿に入った。
なんでこんなめんどうなことをするかって?

満室だといって面と向かって断られるのが怖かったのざんす。


おもったよりきれいだったドミトリーの部屋。

この部屋には漫画の古本を仕入れに来たという商店の人がいた。



深夜・・・・・。


猛烈な肺の痛みで目が覚めた。しかも叫び声をあげていたようだ。同室の人を起こさなかったが心配だ。






翌朝、朝食の場でその人に言われた。
「体調悪そうですね。夜中に叫んでましたよ。」
「あ、そうなんですか。起こしちゃいましたね。すいません。」
「すごい叫び声でしたよ、
痛い、痛い、お姉さん、って叫んでおられました。」

へ?
「痛い」といっていた記憶はあるが、「お姉さん」いや、俺のことだからたぶん
「おねいさんだろう、
自分の言ったことの内容がどうしてもいまだに理解できていないが、たぶんどうでもいいくらいに本能的なものなのだろうとも思う。

「お兄さん、かぜ?ずいぶん咳き込んでるようだけど。」
「はい、ただの風邪です。」
ここで「喘息発作です」などといっても見ず知らずの方に心配をかけるだけだ。私は無意識にうそを言っていた。
そのおばあさんはカバンからビンを出してきてくれた。
「この薬、風邪に良く効くのよ、差し上げるから持っていきなさい。」
「・・・・・あ、ありがとうございます。」
一瞬考えていただくことにした。
風邪薬を飲むと眠たくなる。だからこの旅では使うことがなかったが、今も家の薬箱に大切に保存してある。

同室の方に言われた。
「あんな叫び声をあげるくらいに体調が悪いなら、無理しないほうが良いよ。」
「あら?あなたたち兄弟じゃなかったの?」薬のおばあさんが言った。
「いえ、たまたま同じ部屋になっただけですよ。」
周りの客もみんな同じことを思っていたようだ。
「小さな弟さんが病気になって心配してるのかと思いましたよ。」


小さな弟さん・・・・・・
この旅で余計にやせて体が縮んでしまったようだ。
同室の商人の方の年齢を聞くと、俺より年下だった。が、私が弟と間違われた。
ここでもまたそのパターンか・・・。

「今日はどこまで行くんですか。」
「えっと、わかりません。」





外へ出た。

ものすごいいい天気を期待していたが、あいにくだった。

むしろもんのすごい霧が出ていた。これはまあしょうがないのだろう。地名が地名だし。


この名前の由来となった岬へ行きたかった。

おそらくは霧でほとんど見えないのだろうと予測したが、しかしそれはやはりもちろんそのとおりだった。

霧たっぷりである。


向こうにヒッチコックの映画のような光景が見えた。
結構こわい。


次の瞬間、






 ぶわ!!










一羽が飛び立ち、



目の下は断崖絶壁である、そこを鳥は滑空していく、



鳥も怖いが、この崖も怖いし、



海はもっと怖かった。



後に残ったのは白波が立つ恐怖の海だけ。

なんだか一つのショーを見ている気がした。





さてと・・・。

鳥も行ってしまった。

俺もそろそろ行かないと。

どうしても行きたい場所があった。釧路である。




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