第21回 野付半島・トドワラを目指して 

「本当にすいません!

予約のお電話をしましたが、

キャンセルをさせてください。」(きっぱり!)


「どうしたの?」
「僕が旅人であるために、いえ、旅人になるためにも雨の中野宿をします。」
言えた!勇気を振り絞ってよかった。
「まあ、そうなの。じゃあ、気をつけてね。あ、これおにぎり。途中で食べてね。」
そういって宿のおばさんは僕を見送ってくれた・・・。」











と、なるはずだったのだが、







「いやあ、すいません、



お世話になります。」





あほ~!俺の口、何を言ってるねん。そこは「すいません、キャンセルをします」やろうが!

だが俺はちゃっかりと荷物を降ろし、宿に上がってしまった。



「ドミトリーで良いって電話でおっしゃってましたよね。ドミトリーのお部屋に案内しますよ。」

あ、そうだった。俺は腐ってもチャリダー。宿に泊まるときでも相部屋のドミトリーを指定していたのだった。
これなら他の旅人と語り合ったりできる。個室で自分を楽させているという自責の念にとらわれなくて良いだろう。
汚くて、古ぼけたドミトリーの部屋であることを願った。

「こちらです。」おばちゃんに案内された部屋はこれだった・・・。






きーれーいー!









ログハウスの一部屋のようなデザインで、掃除が行き届いている。花の香りすら漂ってきそうだ。

そうだ、ここはドミトリーだ。他の旅人は?
「今日は一人の旅行者の方はあなただけですから、この部屋で自由にくつろいでね。」
おばちゃんに最後通牒を突きつけられて気分になった。もちろんおばちゃんが悪いわけではないけど、
俺一人なんて。ドミトリーに一人だなんて。こんなにきれいな部屋で。

なにより「旅行者」といわれてしまった。



不意に女満別ユースで数日前にお会いしたチャリダーのTさんを思い出した。
Tさんもほとんど野宿をしているとおっしゃていた。今も野宿をしておられることだろう。
数時間前にお会いしたMさんもいうまでもなく自らの手でテントを張り、自らの手で食事を作り
旅人として生きているに違いない。

そして今ここにピースケさんは一人部屋にお泊りの「旅行者」となっていた。


どうか飯がめちゃくちゃでありますように、などという願いはすまい。

しかしそれはやはりすばらしかった。

というかすばらしすぎやろ!?












お一人様の旅行者には一人鍋がよく似合うのだろうか.

絶対においしいはずのサケのチャンチャン焼きの味がわからなかった。砂をかむような思いでいただいた。


日記ではこうかいてますが、実際の宿は本当にすばらしく、宿の方は優しく、なにより食事は本当に素敵でした。
とてもお勧めの宿です。

ただ、このときのピースケがあまりに思索しすぎていたため、こんな日記になっています。

偽りなく思いを書いているからこうなってます。





迷いながらもちゃっかり完食をして部屋に戻った。言うまでもないが他の客はみんな夫婦か家族連ればかりだった。
きれいな天井を見ながらいろいろと考えたが、結局は同じことの繰り返しに過ぎない。
いつの間にか眠ってしまった。

ただしちゃっかりと部屋をこんな風にはしていた。




目が覚めたとき一つの決意を夢の中でしていた。今度はエロチシズムな夢は見なかった。
この北海道では宿には泊まるまいとか言うそんな小さなものではない。

数年以内に必ず自転車による日本一周をする!

仕事があってもやってやる。
むちゃくちゃな決意だがなんとかなるような気がした。

俺は洗濯物をたたみながら、
自分にこの決意を与えてくださった八尾のTさんと宮崎のMさんに感謝した。
お二人に会えてよかったと心から思う。



翌朝。


まっすぐな道を進んでいる。
しかも暗い。
とはいえ、大阪でこの曇り空ならもっと嫌な気分になる。そうさせないのが北海道の偉大さだろう。

国道335号線は大きく左に折れ、道道950号線へと変わる。
道がぐんと狭くなったが、海に圧迫されているのだ。
よくぞこんな半島ができたものだ。海に挟まれた狭小な野付半島を俺は走っている。
その長さ18キロ。


左右に海があるから風がきつい。追い風ならうれしいが、素敵なことに向かい風だ。
この旅で体重が50キロ台前半になった俺の体が飛ばされそうになる。
海岸線を走るなら太ってからのほうが良かったかもしれない。

でも、ものは考えようである。今から目指す地はこのように風が強く陰鬱な曇り空のほうが似つかわしいかもしれない。
その目指す地、トドワラ!


トドワラとは

トドマツの原っぱからきた地名であり、


野付半島の江戸時代の中頃まで、トドマツ・エゾマツ・ハンノキ・カシワから成る原生林があった。

しかし年々地盤が沈下し、海水が浸入。

ついには立ち枯れの森となってしまったのである。



寒さに震える私の前にこんな光景が待ち構えていた。

立ち枯れた木々。


一見美しい白木に見えるが、実際は悲しい枯れ木であった。
向こうに駐車場が見えてきた。ついでに見たくない観光バスの団体様も見えた。

でも俺が目指すのはその奥のトドワラだった。

眼前を覆いつくす立ち枯れた木々。まさに幽鬼の如し。

駐車場にチャリをとめた。そこからは歩いていく。



最初はこんな景色が続いた。
             



進むにつれ

枯れ木が目立ち始め、いつの間にか死せるものだけの荒野となっていた。
大半の枯れ木が写真のように横たわっていたが、数年前は立ち枯れていたそうだ。
私もそんな光景を本で読んでやってきたが、人々の知るトドワラとはちがう光景となっていた。
なぜこうなったか。周辺の開発による地盤沈下で、立ち枯れた木が倒壊してしまったのだ。

木々はどんな思いだろう。一度死んでしまったのに、さらに追い討ちをかけて人間が自分の屍をさらに踏みにじっているのだ。そしてそこを多くの人が見物に来ているのだ。
     

数少ない立ち枯れのまま残っていた木の一本。
彼が倒れるのはいつのことだろうか?すぐそこには海が迫っている。




海からの風がりゅうりゅうと音を立てている。
俺はまたこぎ続けた。すべての観光客がトドワラを見るとまたバスに乗ってもと来た道を引き返すのだが、俺は岬の突端へ向かってこぎ続けた。
そしてここまできた。


野付半島の先端は私有地になって終わってた。俺がいけるのはここまで。
この旅二度目の行き止まりである。
これでいいのだ。                       


                                       

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