夏なのに寒さに震えた 北の大陸    北海道自転車の旅


 第8回 摩周湖の水面を見たい

旅にどうして出るのかを考えたことがある。
簡単に出そうにない答えが瞬時に出たのが、お遍路結願の瞬間だった。
「誰かに会うため」なのである。
一人旅をしているとき多くの人との出会いに喜びを感じ別れに涙して、そしてまた歩き続けた。
家に帰ってからも思い出すのはきれいな景色でも、ましてやうまい飯でもなく、私にあっていただいた「人」そのものなのである。
これまでの私の旅人生で会えてよかったと思えた人はいくらいるのだろう。
数え切れないほどだ。その逆はほとんどいない。

ましてや旅人の集まる北海道チャリ旅だ。
めちゃくちゃ期待して出発した。

そんな北海道一人旅の三日目である。




展望台の駐車場は有料である。この有料って言葉、大阪人は嫌いなんだよな・・。
とはいえ払うべきものは払わないと。
でも料金表に「自転車」の文字はない。
「すいません、自転車はいくらですか?」
自転車は無料ですよ。この坂を上ってきたの?すごいね。僕。」

「すごいね、僕」といわれたピースケは無料という、大阪人がもっとも素敵に感じる言葉の恩恵にあずかって自転車を停めた。にしても久々に「僕」といわれた。旅に出ると若返るというピースケの法則もまた健在だった。

階段を上る。
摩周湖はめったにその姿を現さない。見えなかったら女性なら結婚が遅れ、男性なら出世ができないという。出世など関心のない私には願ったりかなったりだが、見えないのはやはり嫌だ。
必死の思いでこの坂道を登ってきたのだ。

ほんの少しでいい、驚くほど青いというその湖面を見たい。

階段を上る。


この柵の向こうに青い湖面が見えるはずだ。
      



少しずつ近づく。


出世なんかどうでもいいと普段思っていたけど、いざとなるとある程度期待してしまう。


せーの!




             


     白!


完敗した。


完敗?
俺の旅はあきらめないことが信条だったはずだ。
祈れば通じるはずだ。
摩周湖の神様、お願いします。はるばる大阪からこのためにやってきたのです。
一瞬でいいから青い色を見せてください。



願いはかなった。

目の前に青いものが!



            
                   青!


すいません。

ブルーアイス300円也。完璧悪あがきです。てかこうやって遊ぶしかないのだ。
普段はソフトクリームを食べることはない。甘い食べ物が苦手だから。
でも旅に出るとご当地アイスは食べたくなるのだ。

能天気にソフトクリームをべろべろしながら、あるものをながめた。大量に来ていらっしゃる団体様のバスだ。外国の人も多い。はるばる外国から来てこの霧だとやはりつまらないだろうな。
駐車場にはむしろ団体ではない人のほうが少ないくらいだ。

あ、あの人たちは少人数のグループのようだ。


よかった。こういう人もいるのだ。



よかった・・・・・・?


あ”、あのおっちゃんらじゃないか!そうか、この霧もあの人たちのせいにちがいない、などと訳のわからないことを考えてはいたが、出会った人を無視するのは俺の旅の鉄則に反する。
俺は一瞬の決心を経た後、さわやかーに声をかけた。

「こんにちは、偶然ですね。」
「・・・・・・・・・・・?」おっちゃんらは黙っている。
うわ、また何か説教でもされるんだろうか?摩周湖をチャリではしると環境に悪いとか何とか。
「あ、そうか。ユースに泊まっていた子か。すまん、すまん。誰かわからなかった。」
ようやく一人のおっさんが口を開いた。

へ?たった数時間前に別れたばかりなのに、もう忘れたのか~。
そんなものかもしれない。
出会いを重んじないからこそ、他の人への配慮もしないのだ。

気づけば俺のほうに見向きもせず、もう自分たちの話で盛り上がっている。
「いやあ、数分前までは晴れてたのに急に霧がかかってすごいよな。」
げ?まじですか?

俺は居住まいが悪くなりチャリにまたがった。
絶対にこの霧はおっさんらの悪意に違いない。
彼らなら霧を発生させることぐらい朝飯前だろう。


ふと左の美しい林の中に鹿の姿が見えた気がした。
      
人間がダメでも動物とは出会えるとおもったが、次の瞬間にはどこにいるのかわからなくなった。

この旅は孤独と戦わねばならないのだろうか?




霧がかかっているからこそ美しい光景もある。


    名前も知らない樹木の手前に咲く花。なんと美しい。



   霧がかる路傍に静かに咲くマーガレット。なんと美しい。


      霧がかる道でたたずむ旅人。なんと美しい。




先ほどの駐車場からしばらく行くと第三展望台がある。
こちらのほうが人が少なくてお勧めである。

いま「お勧め」などとえらそうなことを書いたのだが、私とてこの展望台は偶然見つけた。
どこか見晴らしのいい場所はないかとこだわって走り続けたのだ。
思えば、一人旅・バックパッカーの面白さはここにあるのだろう。
観光バスに乗っていた人たちは、さっきのメジャーな混雑展望台のみで引き返したに違いない。
自分の心と体と目でよりよい場所を探せる孤独な旅人だからこそ、「捜す」ことができるのだ。

そして、孤独な旅人が捜した当てたこの場所とて                                          
               さっきより、真っ白!


参りました。ここまでくればあきらめます。
摩周湖様、またいつか来る日には僕に湖面を見せてください。

そう祈る俺の前をどんちゃん騒ぎする観光バスが通り過ぎた。この第三展望台には見向きもせず。

とはいえ、ここは北海道である。一つがダメでも、いくらでも旅人を受容する要素は存在していた。

                                              

   北海道の旅 目次     

 

     トップページ  掲示板  日記帳  リンク 更新記録  メール  

SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu